
今回は、中小企業経営者向けに「これだけは知っておきたい専門用語 」を解説します。
・中小M&Aとは?
・M&A支援機関とは?
・中小M&Aを依頼する際に最低限押さえたい用語は?
このブログは、2022年3月1日に初公開した記事に最新情報を加味して更新したものです。
- これだけは知っておきたい 「中小M&A」専門用語
- M&A
- 中小M&A
- マッチング
- 仲介者
- FA(フィナンシャル・アドバイザー)
- M&A支援機関登録制度
- セカンド・オピニオン/他の支援機関への相談
- 専任条項
- テール期間
- ノンネーム・シート(ティーザー)
- ロングリスト/ショートリスト
- 秘密保持契約(NDA=Non-Disclosure Agreement,CA=Confidential Agreement)
- 企業概要書(IM=Information Memorandum,IP=Information Package)
- 意向表明書
- 基本合意書(LOI=Letter of Intent,MOU=Memorandum Of Understanding)
- デューデリジェンス(DD=Due diligence)
- クロージング
- PMI(Post-merger Integration)
- バリュエーション(valuation)(企業価値評価・事業価値評価)
- チェンジ・オブ・コントロール(COC=Change of Control)条項
- 表明保証条項
- 表明保証保険
- まとめ
これだけは知っておきたい 「中小M&A」専門用語
中小M&Aが盛んになってきました。とはいえ、使われる専門用語 は馴染みがないものが多いです。そこで今回は、辞書的に「これだけは知っておきたい専門用語 」を解説しています。
【参考】ブログ「中小M&Aガイドライン」早わかり」
M&A
「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」を略して、M&Aと呼びます。日本では、合併や会社分割といった組織再編に加え、株式譲渡や事業譲渡もM&Aに含まれます。これらは、広く事業の引継ぎ(譲渡・譲受)を意味するものです。
【参考】ブログ「合併・買収の種類は?」
中小M&A
後継者がいない中小企業の事業を、M&Aの手法を使って社外の第三者が引き継ぐことを指します。なお、「中小M&Aガイドライン」では、親族内承継や従業員承継は中小M&Aに含まれていません。ただし、親族内承継であっても、事業の拡大や資本提携のためにM&Aが必要となる場合があります。そのため、中小M&Aについて理解しておくことは、どの企業にとっても重要です。
【参考】ブログ「「親族内承継」と「第三者承継(M&A)」の進め方の違い」
マッチング
譲渡側(後継者不在企業)と譲受企業(買い手側企業)が、M&Aの当事者となり得る者として接触することをいいます。そのため、両者の具体的な交渉は、このマッチングの後に始まります。
仲介者
譲渡側と譲受側の双方と契約を結び、マッチング支援などを行う支援機関のことです。そして、仲介契約とは、仲介者が譲渡側・譲受側の両方と締結する契約を指します。このように、その契約に基づいて行われる業務を「仲介業務」といいます。
FA(フィナンシャル・アドバイザー)
譲渡側または譲受側のいずれか一方と契約を結び、マッチング支援などを行う支援機関のことです。そして、FA契約とは、FAが譲渡側または譲受側の一方と締結する契約を指します。このように、その契約に基づいて行う業務を「FA業務」といいます。
【参考】ブログ「M&Aを依頼するのは仲介者、FAのどちらがよいか?」
M&A支援機関登録制度
中小企業が安心してM&Aに取り組めるよう、2021年8月に国がこの制度を創設しました。具体的には、「中小M&Aガイドライン」の遵守を宣言した仲介者またはFA(支援機関)が、この制度に登録できます。
さらに、M&Aを実行する経営者が、仲介者やFAの手数料について事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)を利用するには、支援機関がこの制度に事前に登録されているかどうかを確認することが重要です。
【参考】ブログ「M&A支援機関とは」
セカンド・オピニオン/他の支援機関への相談
中小M&Aを実施しようとしている者が、他のM&A支援機関に意見を求めることです。例えば、支援機関と契約を結ぶ前や、支援機関から受けた助言の妥当性を確認したい場合に行われます。なお、下記の「専任条項」には注意が必要です。
専任条項
マッチング支援などにおいて、他の仲介者やFAに並行して依頼することを禁止する条項です。特に、後継者不在企業の経営者は注意が必要です。セカンド・オピニオンを求めることや、他の仲介者・FAを通じてマッチングを行うことが禁止される場合があります。また、契約期間や中途解約の条件についても、あらかじめ確認しておくべきです。
テール期間
マッチング支援などにおいて、M&Aが成立しないまま仲介契約・FA契約が終了した後の一定期間のことを指します。一方、テール条項とは、この期間中に譲渡側企業がM&Aを実施した場合、契約は終了していても仲介者やFAが手数料を請求できると定めた条項です。
なお、以下の事項は契約を結ぶ前に必ず確認しておくべきです。
- テール期間の長さ(最長でも2~3年が目安)
- テール条項の対象となるM&A(基本的には、その仲介者・FAが関与・接触し、譲渡側企業に紹介した譲受側企業とのM&Aに限定される)
ノンネーム・シート(ティーザー)
譲渡側企業が特定されないように、企業概要を簡単に要約した企業情報のこと。なお、ノンネーム・シートは、譲受側企業に対して関心の有無を打診するために使用されます。
ロングリスト/ショートリスト
ロングリストとは、譲渡側企業がノンネーム・シートを送付する候補を選定するために作成する一覧表です。具体的には、譲受側となり得る企業について、基礎情報をまとめたもので、通常は数十社程度が掲載されます。
一方で、ショートリストとは、ノンネーム・シートを受け取った企業のうち、関心を示した候補の中から、より具体的に検討可能な企業を絞り込んだ一覧表を指します。そのため、通常は数社程度に絞られます。
秘密保持契約(NDA=Non-Disclosure Agreement,CA=Confidential Agreement)
秘密保持を確約する趣旨で締結する契約のこと。具体的には、
- ノンネーム・シート(ティーザー)を見た譲受側企業が、譲渡側企業に関心を持ち、より詳細な情報を得る際に締結するケース。
- 譲渡側企業または譲受側企業が、仲介者やFAとの間で締結するケース(多くの場合、仲介契約・FA契約に秘密保持条項として含まれています)。
などがあります。
企業概要書(IM=Information Memorandum,IP=Information Package)
譲渡側企業が秘密保持契約を締結した後に、譲受側企業へ提示する資料です。この資料には、実名や事業内容、財務情報など、譲渡側企業に関する具体的な情報が記載されています。
意向表明書
譲受側企業が、譲受の際の希望条件を表明するために提出する書面です。通常は、この書面に法的拘束力はなく、あくまで意思表示として扱われることが多いです。
基本合意書(LOI=Letter of Intent,MOU=Memorandum Of Understanding)
譲渡側企業が特定の譲受側企業に絞ってM&A交渉を行うと決めた際に作成される書面です。
この段階での両社の了解事項を確認することを目的としています。通常は、基本合意書そのものに法的拘束力はありません。しかし、譲受側企業の独占的交渉権や秘密保持義務など、一部の条項には法的拘束力が認められるのが一般的です。
デューデリジェンス(DD=Due diligence)
譲渡側企業のリスクなどを精査するために行う調査のことです。
主に譲受側企業が、FAや士業などの専門家に依頼して実施します。調査項目は、M&Aの規模や譲受側の意向によって異なります。一般的には、次のような種類のDDがあります。
- 財務DD :資産・負債等に関する財務調査
- 法務DD :株式・契約内容等に関する法務調査
- 事業DD :譲受側企業が同業であれば、自社で対応(ビジネスDDともいう)
- 税務DD :財務DDに含まれることがある
- 人事労務DD:法務DDに含まれることがある
また上記の他、知的財産DD、環境DD、不動産DD、ITDDなどもあります。
クロージング
M&Aにおける最終契約の決済のこと。具体的には、株式譲渡や事業譲渡などの最終契約を締結した後に、株式や財産の譲渡、そして譲渡代金(譲渡対価)の全部または一部を支払う工程のことです。
PMI(Post-merger Integration)
クロージング後の一定期間内に行う経営統合作業のこと。なお、M&Aにおけるクロージングは、スタートラインに過ぎません。したがって、クロージング後の経営統合の取り組みが重要です。そこで、2022年3月には「中小PMIガイドライン」が中小企業庁から公表されました。なお、個人が事業を引き継いだ場合、創業支援に近いものがあります。
バリュエーション(valuation)(企業価値評価・事業価値評価)
譲渡側企業(または事業)の価値を定量的に評価することです。
仲介業者・FA・士業などの専門家が、経営者との面談や提出資料、現地調査などをもとに企業価値を算定します。この評価額は、中小M&Aにおいて譲渡額を決める際の目安の一つとして活用されます。さらに、企業価値の評価手法にはさまざまな種類があり、企業の実態や事業の特性に応じて適切な方法が選ばれます。
たとえば、中小M&Aでよく用いられる手法には、以下のようなものがあります。
- 「時価純資産法」
- 「簿価純資産法」
- 「類似会社比較法(マルチプル法)」
- 「時価純資産法」に数年分の利益(のれん代)を加算 など
【参考】ブログ「自社株式(非上場)の株価算定方法は?」
チェンジ・オブ・コントロール(COC=Change of Control)条項
契約当事者の株主構成や支配権に変動があった場合に、契約相手に解除権が発生することを定めた条項です。例えば、この条項は賃貸借契約、取引基本契約、フランチャイズ契約などに含まれていることがあります。
表明保証条項
契約当事者の一方が、契約時点やクロージング時点など特定の時点において、契約内容に関する事項が真実かつ正確であることを相手方に表明し、その内容を保証する条項です。通常、この条項には違反があった場合の損害賠償や契約解除などの補償規定も含まれます。
たとえば、譲渡側が「従業員との労働紛争は存在しない」と表明保証していたにもかかわらず、実際には紛争があり、M&A後に和解が成立したようなケースでは、和解金を譲渡側(またはその経営者)が負担することになります。
表明保証保険
表明保証保険は、「M&A保険」と呼ばれることもあります。
譲渡側が自ら、または譲渡対象会社に関して一定の事項を表明保証していたにもかかわらず、その内容に違反があった場合の損害を補償する保険です。このような保険により、表明保証違反に伴うリスクを保険会社が引き受けます。
その結果、譲渡側と譲受側の交渉を円滑に進めることが可能になります。一般的には、デューデリジェンス(DD)の結果をまとめたレポートなどを損害保険会社に提出し、引受審査を受ける必要があります。
まとめ
今回は、後継者不在の中小企業経営者が会社の売却を検討する際に、知っておきたいM&Aの専門用語を解説しました。これらの用語は、中小企業経営者にとっては馴染みのないものが多いかもしれません。そのため、M&A支援機関を選ぶ際には、専門用語を経営者自身が理解できるように、わかりやすく説明してくれるかどうかも重要な判断材料となります。当事務所では、難解な専門用語も丁寧に、やさしい言葉でご説明することを心がけています。下記よりぜひご相談ください。