今回は、中小企業経営者向けに「これだけは知っておきたい専門用語 」を解説します。
・中小M&Aとは?
・M&A支援機関とは?
・中小M&Aを依頼する際に最低限押さえたい用語は?
- これだけは知っておきたい 「中小M&A」専門用語
- M&A
- 中小M&A
- マッチング
- 仲介者/仲介契約
- FA(フィナンシャル・アドバイザー)/FA契約
- M&A支援機関登録制度
- セカンド・オピニオン/他の支援機関への相談
- 専任条項
- テール期間/テール条項
- ノンネーム・シート(ティーザー)
- ロングリスト/ショートリスト
- 秘密保持契約(NDA=Non-Disclosure Agreement,CA=Confidential Agreement)
- 企業概要書(IM=Information Memorandum,IP=Information Package)
- 意向表明書
- 基本合意書(LOI=Letter of Intent,MOU=Memorandum Of Understanding)
- デューデリジェンス(DD=Due diligence)
- クロージング
- PMI(Post-merger Integration)
- バリュエーション(valuation)(企業価値評価・事業価値評価)
- チェンジ・オブ・コントロール(COC=Change of Control)条項
- 表明保証条項
- 表明保証保険
- まとめ
これだけは知っておきたい 「中小M&A」専門用語
中小M&Aが盛んになってきました。しかし、使われる専門用語 は馴染みがないものが多いです。今回は辞書的に「これだけは知っておきたい専門用語 」を解説しています。
【参考】ブログ「中小M&Aガイドライン」早わかり」
2024年8月30日に中小企業庁より「中小M&Aガイドライン(第3版)」が公表されたことにより、当ブログも改訂しました。
M&A
「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略称です。なお、日本では、組織再編(合併、会社分割)に加え、株式譲渡や事業譲渡を含んだ事業の引継ぎ(譲渡・譲受)のことです。
【参考】ブログ「合併・買収の種類は?」
中小M&A
後継者不在の中小企業の事業を、M&A手法により、社外の第三者が引き継ぐこと。なお、「中小M&Aガイドライン」では、親族内承継や従業員承継は「中小M&A」に含まれていません。しかし、親族内承継であっても、事業拡大等でM&Aが必要になることもあるため、中小M&Aのことを理解しておくことは重要です。
【参考】ブログ「なぜ「親族内承継」の世代交代は進まないのか」
マッチング
譲渡側(後継者不在企業)と譲受企業(買い手側企業)が、M&Aの当事者と成り得る者として接触すること。したがって、両者の交渉は、マッチング後に開始することになります。
仲介者/仲介契約
仲介者とは、譲渡側・譲受側の双方との契約に基づいてマッチング支援等を行う支援機関のこと。なお、仲介契約とは、仲介者が譲渡側・譲受側双方との間で結ぶ契約をいい、これに基づく業務を仲介業務といいます。
FA(フィナンシャル・アドバイザー)/FA契約
FA(フィナンシャル・アドバイザー)とは、譲渡側・譲受側の一方との契約に基づいてマッチング支援等を行う支援機関のこと。なお、FA契約とは、FAが譲渡側・譲受側の一方との間で結ぶ契約をいい、これに基づく業務をFA業務といいます。
【参考】ブログ「M&Aを依頼するのは仲介者、FAのどちらがよいか?」
M&A支援機関登録制度
M&A支援機関登録制度とは、中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築するために、2021年8月に創設された国の制度のこと。「中小M&Aガイドライン(第2版)」の遵守を宣言した仲介者又はFA(支援機関)が登録することができる。M&Aを実行する経営者が、仲介又はFAの手数料について事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)の補助を得るには、支援者がこの制度に予め登録してあるか否か確認しておく必要があります。
【参考】ブログ「M&A支援機関とは」
セカンド・オピニオン/他の支援機関への相談
中小M&Aを実施しようとしている者が、M&A支援機関と契約を締結する際や、M&A支援機関から受けた助言の内容の妥当性を検証したい場合等に、他のM&A支援機関から意見を求めること。なお、下記の専任条項には注意が必要である。
専任条項
マッチング支援等において、並行して他の仲介者・FAへの依頼を行うことを禁止する条項のこと。なお、後継者不在企業の経営者は、他の仲介者・FAにセカンド・オピニオンを求めることや他の仲介者・FAを利用してマッチングを試みることなど、禁止される行為を具体的に確認しておくべきです。また、契約期間、中途解約についても併せて確認しておくべきです。
テール期間/テール条項
マッチング支援等において、M&Aが成立しないまま、仲介契約・FA契約が終了した後の一定の期間のことをテール期間といいます。
また、テール期間内に、譲渡側企業がM&Aを実施した場合に、その契約は終了しているにもかかわらず、その仲介者・FAが手数料を請求できる条項のことを、テール条項といいます。
なお、以下の事項は、契約締結前に確認しておくべきです。
- テール期間の長さ(最長でも2~3年が目安)
- テール条項の対象となるM&A(基本的には、その仲介者・FAが関与・接触し、譲渡側企業に紹介した譲受側企業とのM&Aに限定される)
ノンネーム・シート(ティーザー)
譲渡側企業が特定されないように、企業概要を簡単に要約した企業情報のこと。なお、ノンネーム・シートは、譲受側企業に対して関心の有無を打診するために使用されます。
ロングリスト/ショートリスト
ロングリストとは、譲渡側企業のノンネーム・シートの送付先を選定するにあたり、譲受側となり得る候補先企業についての基礎情報をまとめた一覧表のこと(なお、通常は数十社程度)。
また、ショートリストとは、ノンネーム・シート(ティーザー)を送付して関心を示した譲受側企業の候補先の中から、具体的に検討可能な候補先を絞り込んだ一覧表のこと(通常は数社程度)。
秘密保持契約(NDA=Non-Disclosure Agreement,CA=Confidential Agreement)
秘密保持を確約する趣旨で締結する契約のこと。具体的には、
- ノンネーム・シート(ティーザー)を参照した譲受側企業が、譲渡側企業に関心を持った場合に、より詳細な情報を入手するため、譲受側企業と譲渡側企業との間で締結するケース
- 譲渡側企業や譲受側企業が、仲介者・FAとの間で締結するケース(なお、仲介契約・FA契約の中で秘密保持条項として含められるケースが多い)
などがあります。
企業概要書(IM=Information Memorandum,IP=Information Package)
譲渡側企業が、秘密保持契約を締結した後に、譲受側企業に対して提示する、譲渡側企業についての具体的な情報(実名や事業・財務に関する一般的な情報)が記載された資料のこと。
意向表明書
譲受側企業が、譲受の際の希望条件を表明するために提出する書面のこと。基本的には法的拘束力を持たないことが多いです。
基本合意書(LOI=Letter of Intent,MOU=Memorandum Of Understanding)
譲渡側企業が、特定の譲受側企業に絞ってM&Aに関する交渉を行うことを決定した場合に、その時点における譲渡側企業・譲受側企業の了解事項を確認する目的で記載した書面のこと。
なお、基本合意書は法的拘束力はないものの、譲受側企業の独占的交渉権や秘密保持義務等については法的拘束力を認めることが通常です。
デューデリジェンス(DD=Due diligence)
対象企業である譲渡側企業の各種リスク等を精査するため、主に譲受側企業がFAや士業等専門家に依頼して実施する調査のこと。
なお、調査項目は、M&Aの規模や実施希望者の意向等により異なりますが、一般的には以下のDDがあります。
- 財務DD :資産・負債等に関する財務調査
- 法務DD :株式・契約内容等に関する法務調査
- 事業DD :譲受側企業が同業であれば、自社で対応(ビジネスDDともいう)
- 税務DD :財務DDに含まれることがある
- 人事労務DD:法務DDに含まれることがある
また上記の他、知的財産DD、環境DD、不動産DD、ITDDなどもあります。
クロージング
M&Aにおける最終契約の決済のこと。具体的には、株式譲渡、事業譲渡等に係る最終契約を締結した後、株式・財産の譲渡や譲渡代金(譲渡対価)の全部又は一部の支払いを行う工程のことです。
PMI(Post-merger Integration)
クロージング後の一定期間内に行う経営統合作業のこと。なお、M&Aにおけるクロージングは、スタートラインに過ぎません。したがって、クロージング後の経営統合の取り組みが重要であり、2022年3月には「中小PMIガイドライン」、2023年3月には「中小PMIガイドライン講座」が中小企業庁から公表されました。なお、個人が事業を引き継いだ場合、創業支援に近いものがあります。
バリュエーション(valuation)(企業価値評価・事業価値評価)
仲介業者・FAや士業等専門家が譲渡側企業経営者との面談や提出資料、現地調査に基づいて、譲渡側の企業(又は事業)の価値を定量的に評価すること。なお、評価額は、中小M&Aで譲渡額を決める際の目安の一つとして取り扱われます。
さらに、企業価値の評価手法は様々なのものがあり、企業の実態や事業の特性等に応じた手法が選択されます。なお、中小M&Aで採択される手法には、主に下記の手法があります。
- 「時価純資産法」
- 「簿価純資産法」
- 「類似会社比較法(マルチプル法)」
- 「時価純資産法」に数年分の利益(のれん代)を加算 など
【参考】ブログ「自社株式(非上場)の株価算定方法は?」
チェンジ・オブ・コントロール(COC=Change of Control)条項
ある企業が締結している契約(例えば、賃貸借契約、取引基本契約、フランチャイズ契約など)について、当該企業の株主異動や支配権の変動等により当該契約の相手方当事者に解除権が発生すること等を定める条項。
表明保証条項
契約の一方当事者が、他方当事者に対し一定の時点(一般的には最終契約締結時・クロージング時点の両時点)において、当該契約に関する事項について、当該事項が真実かつ正確であることを表明し、かつその内容を保証する条項のこと(通常、同条項違反に基づく損害賠償・契約解除といった補償等についての規定も設けられる)。例えば、譲渡側が従業員との労働紛争が存在しないことを表明保証していたにもかかわらず、実際には紛争が生じており、中小M&A実行後に和解が成立した場合、従業員に支払う和解金相当額を譲渡側が(又はその経営者等)が負担するケースが想定されます。
表明保証保険
表明保証保険はM&A保険と呼ばれることもあります。譲渡側が自ら又は譲渡側の対象会社に関し一定の事項について、真実・正確であることを表明保証していたにもかかわらず、表明保証違反があった場合、それにより譲渡側又は譲受側が被る損害を填補する保険のことです。表明保証違反によるリスクを保険会社が引き受けることにより、譲渡側と譲受側の円滑な交渉が可能になります。一般的には、デューデリジェンス(DD)の結果を報告したDDレポート等を損害保険会社に提出し、引受審査を経る必要があります。
まとめ
さて今回は、後継者不在中小企業経営者が会社を売却を検討する際に、知っておきたい専門用語を解説しました。
しかし、中小企業経営者の方にとって馴染みのない専門用語も多いと思います。したがって、M&A支援機関を選ぶ際の基準として、専門用語を経営者自身が理解できるように説明してもらえるかどうかも重要な判断材料になります。当事務所では、難しい専門用語は易しく説明することを心がけています。