種山会計士

中小企業でもスキルマトリックスの発想は必要です。事業承継時は特に重要です。
今回は、中小企業におけるスキルマトリックスについて解説します。
・スキルマトリックスは、中小企業でも必要か?
・スキルマトリックスの作成方法は?

取締役のスキルを見える化する 

2021年6月、東京証券取引所のコーポレートガバナンスコードが改訂されました。
この改訂に伴い、上場企業は、取締役の持つ能力や求められる役割を見える化することが必須となりました。いわゆる「スキルマトリックス」の開示です。
さらに、2021年12月末までに開示できない場合は、その理由の開示が必須となりました。

スキルマトリックスとは、

経営戦略に照らして
自らが備えるべきスキル等を特定した上で、
取締役会全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性・規模に関する考え方を定め、
各取締役の知識・経験・能力等を一覧化

したものです。

「スキルマトリックス」開示の背景

海外投資家からは、社内出身者ばかりで多様性を欠く、社外取締役が機能していない、などの不満があがっています。今後は、取締役のスキル等を外部の株主にわかりやすく説明する必要があります。

  • 会社の経営戦略に沿って、どのようなスキルが必要か
  • そのスキルを持った人材が取締役にいるかどうか

作成手順

  1. 会社の外部環境・経営戦略に照らして、取締役にどのようなスキルが必要か(スキルの棚卸)。
  2. それぞれのスキルについて定義づけをする(スキルの定義)。
  3. 監査役や執行役員など、どの範囲まで開示するか決定する(スキルの開示範囲)。

個人的な意見ですが、そもそもこのような発想で取締役が選任されていないケースが多いと思います。したがって、まず取締役を選任し、バランスよくスキル配分しただけのケースも多いのではないでしょうか。

事例(ニトリの場合)

2021年3月期の株主総会の招集通知では、「スキルマトリックス」採用企業が370社超と前年の5倍になりました。以下では、「ニトリ」の事例を見ていきます。

上記の事例ではスキル項目が14あります。また表記も「スキル・経験」ではなく、「知見・経験」となっています。
この中に「現状否定、変化・挑戦」という、理念的な項目も含まれています。ここに〇がついていない取締役もいます。
他社では「財務・会計・税務」のスキルを持つ取締役は割と多い印象です。ニトリでは〇をしている取締役は2名です。このあたりは社風を表しているのかもしれません。
スキルマトリックス」から、その会社が求めているスキルが見えてきます。
リクルート中の学生や転職活動中の方も、自分自身の強みや性格と照らし合わせることにより、会社選びの一つの基準になると思います。

中小企業とスキルマトリックス

将来上場を考えていない中小企業は、「スキルマトリックス」の作成は不要です。
ただ個人的には、中小企業にも「スキルマトリックスの考え方」は必要と考えます。
中小企業は経営資源(経営リソース:ヒト、モノ、カネ、情報)が不足しがちです。したがって、中堅規模以上でなければ、社長にすべてのスキルが集中しています。

中小企業の場合、経営戦略上必要なスキルをもった人材が必ずしも社内にいるわけではありません。
従って、外部の専門家を含めた「スキルマトリックス」が現実的だと思います。
一番身近な顧問会計士・税理士も、単に試算表を作成してもらったり、税務の相談にのってもらうだけでなく、「財務・会計・税務」分野を担う社外役員的な役割と考えると、どのような専門家にお願いしたほうがよいのか見る目も違ってくると思います。

まとめ

以上、「スキル・マトリックス」について見てきました。中小企業の場合、特に事業承継時に「スキルマトリックスの考え方」が重要だと思います。
二代目以降、創業社長のカリスマ性を引き継ぐことは容易なことではありません。したがって、二代目以降はチーム制で運営していくのが現実的だと思います。
事業承継を円滑に行っている会社は、先代経営者が無意識のうちに「スキルマトリックスの考え方」をしているケースが多いように思います。