
この記事では、減価償却によって「現金が残る仕組み」である『自己金融効果』について、具体的な数値例を交えながらわかりやすく解説します。
このブログは、2022年5月3日に初公開した記事に最新情報を加味して更新したものです。
減価償却 とは?
固定資産の取得価額を、
使用可能な期間にわたって、
各事業年度の費用として配分する会計上の手続
です。
なお、固定資産とは、企業が長期間にわたって事業に使用する自社所有の資産を指します。
このうち、設備や機械、器具・備品など、時間の経過とともに価値が減っていく資産は「減価償却資産」と呼ばれます。
減価償却のイメージ図
取得価額1,000千円、耐用年数5年

種山公認会計士事務所作成(無断転載・転用不可)
【参考】国税庁タックスアンサー「No.2100 減価償却のあらまし」
減価償却費の特徴
固定資産を一括で現金購入した場合、支出は購入時のみで、以後の事業年度には現金支出は発生しません。
しかし、資産の価値は年々減少するため、毎期「減価償却費」として費用計上されます。また、この減価償却費は、実際の現金支出を伴わない「非現金支出費用」です。
一方、固定資産を割賦で購入した場合、購入後の各年度でも支払いが続きます。
ただし、この支払いと減価償却費とは直接の関連はありません。減価償却は、資産の使用による価値の減少を表す会計上の処理です。したがって、減価償却は支払方法にかかわらず行われます。
自己金融効果 とは
自己金融効果とは、現金支出を伴わない費用(例:減価償却費)を計上することで、その分の資金が社内に留保される効果のことです。
たとえば、ソフトウェアの償却や、繰延資産の償却なども同様です。費用計上はされますが現金は流出せず、資金が企業内に残るという自己金融効果があります。
事例
減価償却とキャッシュフローの関係について、以下のブログ事例で解説します。なお、各事業年度の現金収支は以下のとおりです。
- ×1年度の現金収支
収入:売上高30,000千円
支出:売上原価15,000+販売費及び一般管理費(減価償却費除く)10,000+法人税等1,510+固定資産の取得1,000=27,510千円
収入-支出=30,000-27,510=2,490千円 - ×2年度~×5年度の各事業年度の現金収支
収入:売上高30,000千円
支出:売上原価15,000+販売費及び一般管理費(減価償却費除く)10,000+法人税等1,510=26,510千円
収入-支出=30,000-26,510=3,490千円
損益計算書とキャッシュフロー計算書の関係は?
損益計算書は発生主義のため、現金収支は直接わかりません。そこで、キャッシュフローを求めるために、キャッシュ・フロー計算書を作成します。キャッシュ・フロー計算書(間接法)は、損益計算書の税引前利益から逆算して作成します。今回は、減価償却に焦点をあてるため、税引後利益から逆算します。

種山公認会計士事務所作成(無断転載・転用不可)
各事業年度において、税引後利益に減価償却費(200千円)を加算すると、現金の増加額と一致します(×1年度については、固定資産取得の支出1,000千円を差し引いたうえで一致)。
つまり、毎期の税引後利益に減価償却費を加えることで、企業内に実際に残る資金(現金増加額)が把握できます。このときの減価償却費200千円が「自己金融効果」です。現金支出を伴わず、社内に資金を残す役割を果たしています。
なお、営業利益に減価償却費を加えた指標は、「EBITDA(イービットディーエー)」と呼ばれ、企業のキャッシュ創出力を示す簡易的な営業キャッシュフローとしても活用されます。
貸借対照表は?
上記の事例の貸借対照表は下記のとおりです。なお、×5年度末の会計的な内部留保は、税引後利益の累積16,450です。

種山公認会計士事務所作成(無断転載・転用不可)
まとめ
今回は、減価償却とキャッシュフローの関係、そして減価償却がもたらす「自己金融効果」について解説しました。抽象的で分かりにくいテーマですが、実際の数値例を用いて確認すると、理解が進みます。自社の資金繰りや財務分析を行う際には、減価償却費の役割を正しく把握することが重要です。
ご不明な点や、自社への具体的な影響について知りたい方は、お気軽にご相談ください。