種山会計士

この記事では、自社株式(非上場)を誰かに移転する際の株価について解説します。
・相続・贈与(無償譲渡)で移転する場合の株価は?
・売買取引(有償譲渡)で移転する場合(M&A)の株価は?
・同族間取引の際の注意点は?

このブログは、2021年11月9日に初公開した記事に最新情報を加味して更新したものです。

相続・贈与時の株価

相続・贈与においては、現経営者(親)から後継者(子)に自社株式が無償(ただ)で移転します。
そのため、相続税・贈与税を計算するために株価を算定する必要があります。
これを「相続税法上の株価」といい、以下の3つがあります。

類似業種比準方式

類似業種の株価をもとに、評価する会社(非上場会社)の1株当たりの
「配当金額」
「利益金額」
「純資産価額(簿価)」
の三つで比準して評価する方法です。

【参考】国税庁タックスアンサー 「No.4638 取引相場のない株式の評価

純資産価額方式

会社の資産や負債を相続税の評価に洗い替えます。そして、その評価した資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた残りの金額により評価する方法です。

配当還元価額方式

その株式を所有することによって受け取る一年間の配当金額を一定の利率(10%)で還元して元本である株式の価額を評価する方法です。

売買取引時の株価(M&A)

非上場会社株式を利害関係のない第三者に売却する際には、複数の株価算定手法が用いられます。
これらの手法は、株価の「妥当な範囲」を把握するための参考指標であり、絶対的な価格を示すものではありません。
最終的な売買価格は、売り手と買い手双方の合意により決定されます。

DCF法(インカムアプローチ)

将来に獲得が期待される利益やキャッシュフローに着目した評価方法です。したがって、株価算定にあたって事業計画が必要です。このため、中小企業にとってはハードルが高いです。

類似会社比較法(マーケットアプローチ)

この評価手法では、業種・規模・収益性・キャッシュフローなどの観点から、評価対象企業と類似する上場企業を複数選定します。
その上で、各上場企業の株価指標を参考にすることで、評価対象企業(非上場会社)の企業価値のおおよその相場を推定します。
なお、この手法は、上場企業の中に対象企業と類似する会社が存在することが前提となります。

時価純資産法(コストアプローチ)

評価時点における会社の保有資産の時価総額から、負債総額を差し引いた純資産額を企業価値とする評価方法です。
あくまで評価時点の静態的な価値を示すものであり、将来のキャッシュフローや収益力は反映されません。

売買取引時の注意点

中小企業の場合、事業計画がなく、また上場会社に類似会社がないケースがほとんです。
その結果、評価方法として「時価純資産+のれん代(年間利益に一定年数分を乗じたもの)」を用いることが多くなっています。

なお、売買取引においては、原則として利害関係のない第三者間で合意された価格が「時価」として扱われます。
しかし、同族関係者間での取引では、時価から大きく逸脱した価格で株式が譲渡されるケースも少なくありません。

たとえば、経営者である親が後継者である息子に対し、資金負担を軽減する目的で、時価1億円の自社株式を1円で譲渡することは形式上可能です。
しかし、この場合、時価と譲渡価額との差額である99,999,999円は「贈与」とみなされ、贈与税の課税対象となります。

そのため、同族間で株式の売買取引を行う際には、税務上問題とならないよう、「所得税法上の株価」「法人税法上の株価」「相続税法上の株価」といった各税法に基づく評価基準を意識し、慎重に対応することが求められます。

まとめ

最後に、相続・贈与・譲渡(M&A)における税務上の株価の扱いの違いを整理します。
非上場会社の株価は、相続税や贈与税、譲渡所得税の算定において重要な基礎となる一方、評価方法を誤ると税務上の問題に発展する可能性があります。
そのため、株価の算定については、公認会計士や税理士に依頼することが望ましいと言えます。

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