最終更新日:2022年11月4日
以前のブログでは、非上場会社の株価算定手法には2種類あることを解説しました。
今回は、相続・贈与時の株価(相続税法上の株価)について解説します。なお、実際に移動させる場合は、必ず公認会計士や税理士に相談してください。
【参考】ブログ「非上場会社の株価算定方法は?」
【この記事を読んで得られること】
- 株式を誰が取得するかによって株価は変わる?
- 「取引相場のない株式」の原則的な評価方式とは?
- 「取引相場のない株式」の例外的な評価方式とは?
※今回のブログでは、特定の評価の会社(清算中の会社、株式等保有特定会社、土地保有特定会社、開業前の会社)は扱っておりませんのでご注意ください。
取引相場のない株式とは
中小企業のほとんどは非上場会社です。したがって、その株式は「取引相場のない株式」です。「取引相場のない株式」とは、上場株式(及び気配相場等のある株式)以外の株式のことです。なお、「取引相場のない株式」の算定にあたっては、会社規模、株主構成、類似業種株価、など計算の大部分が財産評価基本通達(国税庁)に定められています。また、以前のブログで解説した「相続税法上の株価」は、「取引相場のない株式」と同義です。
【参考】国税庁 財産評価基本通達「第8章その他の財産 第1節株式及び出資」
取引相場のない株式の評価方法は?
「取引相場のない株式」は、以下の流れで評価します。
- 相続や贈与などで株式を取得した株主が、
- 株式発行会社の経営支配力を持っている同族株主等か、それ以外の株主かにより、
- 同族株主等は、原則的評価方式(類似業種比準価額方式or純資産方式)により評価し、
- 同族株主等以外の株主は、特例的評価方式(配当還元方式)により評価する。
原則的評価方式が適用される同族株主等とは?
同族株主とは、議決権割合が30%以上であるグループ(株主とその株主の同族関係者)に属している株主のことをいいます。同族株主が非上場会社株式を取得する場合、原則的評価方式が適用されます。また、議決権割合が15%以上であるグループに属している一定の株主が取得する場合も原則的評価方式が適用されます。これら以外の株主、つまり、同族株主等に該当しない株主は、特例的評価方式により株価を評価します。
原則的評価方式
原則的評価方式には、類似業種比準方式、純資産価額方式があります。
類似業種比準方式

なお、上式の「類似業種の株価」「類似業種の配当」「類似業種の利益」「類似業種の簿価純資産」は国税庁より公表されています。
【参考】国税庁「令和4年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について」
純資産価額方式

会社の規模によって評価方式が指定されている
原則的評価方式が適用されて実際の株価を計算する場合、以下の3つの価額があります。
- 類似業種比準方式(類似業種比準価額)
- 純資産価額方式(1株当たりの純資産価額)
- 併用方式(類似業種比準価額×L+1株当たりの純資産価額×(1-L))
※Lの割合:会社の規模に応じて、90%、75%、60%、50%のいずれかを適用
上記のうち、どれが適用されるかは会社の規模によって異なります。

出典:中小企業庁「中小企業税制パンフレット令和4年版」
会社の規模が大きいほど、上場企業の類似業種株価に連動する「類似業種比準方式」を適用します。また、規模が小さいほど、実態に合わせた「純資産価額方式」を適用します。
なお、上表のとおり、会社の規模に応じて「原則」と「例外」があります。したがって、「原則」と「例外」で株価が低い方を選択することが可能です。つまり、どの会社の規模に該当しても、低い株価を選択したほうが、自社株評価は低くなりますので、相続税額も少なくなります。
会社規模の判定
会社規模の判定は、下表で行います。従業員数が70人以上であれば、その他の要素に関係なく「大会社」となります。従業員数が70人未満であれば、業種ごとに、総資産価額、年間の取引金額(売上高)、従業員数で判定します。

出典:中小企業庁「中小企業税制パンフレット令和4年版」
事例
例えば、以下のような会社があった場合、会社規模は「中会社の大」となります。
- 昭和50年設立の製造業
- 年間売上高が5億円
- 従業員が15人
- 総資産価額が3億円


特例的評価方式
特例的評価方式として、配当還元価額方式があります。同族株主以外の株主及び同族株主のうち一定の少数株式所有者が取得した株式については、会社の規模にかかわらず配当還元方式によって評価をします。これは、少数株主は会社を支配することよりも配当に興味があると考えられているためです。
配当還元価額方式


内部留保が厚い老舗企業の自社株対策
一般的に、老舗で内部留保が厚い会社は、1株当たり純資産価額よりも類似業種比準価額のほうが低くなります。したがって、「大会社」に該当した場合、類似業種比準価額を選択することが多いです。このため、類似業種比準方式の構成要素である「類似業種の株価」「類似業種の配当」「類似業種の利益」「類似業種の簿価純資産」について対策することになります。ただ、「類似業種の簿価純資産」への対策はなかなか難しいケースが多いです。
まとめ
事業承継の対策をする際、現状の把握が重要です。自社の株価を知っておくことは相続税対策として最初にやるべきことです。経営者の中には、毎年、決算後に株価を算定し、相続税対策をしている方もいます。
贈与の場合、類似業種株価は毎月変動していますので、贈与した月によって変動します。したがって、上場企業の類似業種株価の変動も考慮に入れる必要があります。なお、実際に贈与する際は、顧問会計士・税理士に相談しながら実行することをお奨めします。
\ 事業承継税制、後継者育成、M&Aのご相談は当事務所まで /
当ブログはできるだけ専門用語をかみ砕いてわかりやすさを優先しており、正確性を保証するものではございません。当ブログのご利用によって生じたいかなる損害に対しても、当事務所は賠償責任を負いません。
実際に実行する場合は、顧問税理士等の専門家に必ずご相談ください。
また法制度の改正等によって内容の見直しが必要な場合もございます。あらかじめご了承ください。
このホームページに掲載のコンテンツの無断転載・転用を禁じます。
この記事を読んで参考になりましたらシェアをお願いします!