
経営分析指標(収益性、安全性、生産性、成長性)のうち、よく使われるものについて解説します。
財務分析の重要性とは?
企業経営において財務分析は欠かせない視点です。例えば、売上が伸びているように見えても、利益率が下がっている可能性もあります。そのため、定期的な財務データの確認が必要不可欠です。
なぜ財務分析が必要なのか?
まず第一に、財務分析を通じて会社の現状把握が可能になります。言い換えれば、数字という客観的な根拠をもとに、経営判断の質を高めることができます。さらに、金融機関や外部投資家との対話においても、財務分析結果を適切に説明できることが信用力に直結します。このように、財務分析は社内外のステークホルダーにとって共通の評価基準となります。
よく使われる指標
では、財務分析で使われる主な指標にはどのようなものがあるのでしょうか。例えば、以下のようなものが代表的です。
- 労働分配率
- 労働生産性
- 売上高伸び率
- 経常利益伸び率
- 当期純利益伸び率
これらは、企業の収益性や生産性、成長性を定量的に示す重要な数値です。その結果として、経営課題の発見にもつながります。業界平均と比較することも必要です。
【参考】TKC経営指標(要約版)
以下、収益性、安全性、生産性、成長性の順にみていきます。
収益性・・・会社は利益をあげているか
企業の収益性を評価する際には、売上高に対する各種利益率を確認することが重要です。例えば、売上高営業利益率や売上高経常利益率などが挙げられます。これらの指標を分析することで、企業の収益構造や経営効率を把握することができます。
売上高売上総利益率
会社の粗利益率を示す指標です。
売上高売上総利益率 = 売上総利益 / 売上高 ×100(%)
売上高営業利益率
会社の営業力を示す指標です。「営業利益」は、「売上総利益」から「販売費及び一般管理費」を控除した利益のことです。
売上高営業利益率 = 営業利益 / 売上高 ×100(%)
売上高経常利益率
会社の総合力を示す指標です。「経常利益」は、「営業利益」から「営業外損益」を加減算した利益のことで、「ケイツネ」と略されることも多いです。
売上高経常利益率 = 経常利益 / 売上高 ×100(%)
売上高当期純利益率
税金負担後の処分可能な利益がどの程度あるのかをみる指標です。「当期純利益」は、「経常利益」から「特別損益」を加減算した利益から「法人税等」を控除した利益のことです。
売上高当期純利益率 = 当期純利益 / 売上高 ×100(%)
総資本利益率(=ROA)
すべての投下資本の収益性をみる指標です。分子には、経常利益を用いますが、当期純利益を用いる場合もあります。
自己資本利益率(=ROA) = 経常利益(or当期純利益) / 総資本 ×100(%)
ROA=当期純利益 / 総資産
=( 当期純利益 / 売上高 )×( 売上高 / 総資産 )
=売上高純利益率 × 総資産回転率
- 売上高純利益率の改善:売上高の増加、販管費の削減、売上原価の削減、など
- 総資産回転率の改善:売上高の増加、借入金の返済、不要資産の処分、など
自己資本利益率(=ROE)
株主資本の投資効率を示す指標です。分子には税引後の利益を用います。
自己資本当期純利益率(=ROE) = 当期純利益 / 自己資本 ×100(%)
ROE=当期純利益 / 自己資本
=( 当期純利益 / 売上高 )×( 売上高 / 総資産 )×( 総資産 / 自己資本 )
=売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ=ROA × 財務レバレッジ
ROEを分解すると、ROAに財務レバレッジを乗じたものになります。したがって、ROAの改善施策にプラスして、他人資本(借入金)を増加させると財務レバレッジが上昇し、その結果、ROEは上昇します。
【参考】ブログ「中小企業とROA、ROE」
生産性・・・会社は効率よく運営されているか
生産性を測る指標として、労働生産性や労働分配率が用いられます。具体的には、労働生産性は従業員一人当たりの付加価値を示し、労働分配率は付加価値に対する人件費の割合を示します。これらの指標を通じて、企業の効率的な運営状況を評価することが可能です。
労働生産性
従業員1人あたりで、どれだけの付加価値や生産を生み出したかを示す指標です。上昇している場合
、 少ない労働で多くの価値を生み出しています(効率化・高付加価値化)。また低い場合、労働の無駄が多い、あるいは付加価値が低いと考えられます(労務費や営業効率の見直しが必要)。
労働生産性 = 付加価値 / 従業員数
労働分配率
企業が生み出した付加価値のうち、どれだけが人件費(労働者への報酬)として支払われているかを示す指標です。業種にもよりますが、50%を超えると人件費負担が大きくなってきます。労働分配率が高すぎる場合、賃金が過剰であり、利益が出にくい状況です。また、低すぎる場合、人件費を削りすぎている可能性があり、人材流出の懸念があります。
労働分配率 = 人件費 / 付加価値 ×100(%)
【参考】ブログ「自社の労働生産性を向上させるには?」
安全性・・・会社の支払能力は
企業の財務的な安全性を評価するためには、流動比率や自己資本比率などの指標が用いられます。例えば、流動比率は短期的な支払能力を示し、自己資本比率は企業の財務的な安定性を示します。これらの指標を確認することで、企業の健全性を把握することができます。
流動比率
会社の支払能力を示す指標です。1年以内に資金化できる「流動資産」が、1年以内に返済しなければならない「流動負債」の何倍あるかを示す比率です。200%が理想的です。一般的には100%超であればよいですが、資金繰りの管理をきっちりやっていることが前提です。
流動比率 = 流動資産 / 流動負債 ×100(%)
当座比率
会社の短期的な支払能力を示す指標です。「当座資産」が「流動負債」の何倍あるか、を示す比率です。なお「当座資産」とは、「流動資産」のうち、棚卸資産などのすぐに換金化できないものを除いた現金、預金、受取手形、売掛金、有価証券などです。一般的には100%超であれば支払能力に問題はありません。
当座比率 = 当座資産 / 流動負債 ×100(%)
固定比率
固定資産投資の安全性をみる指標です。100%以下であれば、返済義務のない自己資本の枠内での固定資産投資ですので、資金繰りの心配がありません。
固定比率 = 固定資産 / 自己資本 ×100(%)
固定長期適合率
設備投資の安全性をみる指標です。固定比率が100%超の場合は必ず確認すべき比率です。
100%以下であれば、返済義務のない自己資本と1年超は返済しなくてもよい固定負債の合計の枠内でおさまっているので短期の資金繰りには影響しません。
固定長期適合率 = 固定資産 / (自己資本+固定負債) ×100(%)
自己資本比率
総資本に占める自己資本の割合です。自己資本は返済義務がありませんので、会社が調達した資金の安定性を示す指標です。社歴の古い優良会社ほど、高い傾向にあります。内部留保が厚いという言い方をする場合もあります。
自己資本比率 = 自己資本 / 総資本 ×100(%)
手元流動性比率
手持ち資金(現預金、有価証券)が月商の何倍(か月分)あるかをみる指標です。したがって、当座比率が高いと手元流動比率も高い傾向にあります。ただ手元流動性比率は高すぎてもだめで、資金効率が悪いケースもあります。
手元流動性比率 = (現預金+有価証券) / 売上高(月) (か月)
売上債権回転期間
売上債権が何か月で回収されているかを示す指標です。この指標は短ければ短いほど資金繰りが楽になります。ただし、現金売りだけであれば、回収期間はゼロとなり、売上債権が貸借対照表に計上されることはありません。過去からの推移で滞留債権がないかどうかのチェックも必要です。
売上債権回転期間 = 売上債権(売掛金・受取手形・電子記録債権) / 売上高(月) (か月)
棚卸資産回転期間
何か月分の在庫を保有しているのかを示す指標です。1.5か月程度が適正在庫です。過去からの推移で滞留在庫がないかどうかのチェックも必要です。しかしながら、同業他社との比較も重要ですが、在庫を持っていることが強みの企業もあります。したがって、自社がどのような経営戦略をとっているかも踏まえて指標をみるべきです。この見方は他の指標にも言えます。
棚卸資産回転期間 = 棚卸資産 / 売上原価(月) (か月)
成長性・・・会社は成長・発展しているか
企業の成長性を評価する際には、売上高伸び率や経常利益伸び率などの指標が重要です。例えば、売上高伸び率は前期に比べて売上がどれだけ増加したかを示し、経常利益伸び率は企業の収益力の向上を示します。したがって、これらの指標を分析することで、企業の将来的な成長可能性を評価することができます。
売上高伸び率
前期に比べて、売上高がどれだけ増加したか(または減少したか)を示す成長率です。したがって、売上高の増加トレンドを確認し、事業の成長性を把握する指標です。
売上高伸び率 = (当期売上高−前期売上高) / 前期売上高 ×100(%)
経常利益伸び率
前期と比較して、経常利益がどれだけ増加したか(または減少したか)を示す成長率です。したがって、本業だけでなく、金融収支(受取利息・支払利息など)も含めた企業全体の実力を示す利益の成長率です。
経常利益伸び率 = (当期経常利益−前期経常利益) / 前期経常利益 ×100(%)
当期純利益伸び率
前期と比較して、当期純利益がどれだけ増加したか(または減少したか)を示す成長率です。企業全体の実力を示す利益の成長率です。
当期純利益伸び率 = (当期純利益−前期当期純利益) / 前期当期純利益 ×100(%)
まとめ
中小企業において財務分析は、単なる数字の確認ではなく、経営改善の第一歩です。損益計算書や貸借対照表の読み解きだけでなく、キャッシュフローの把握、課題の特定、そして将来に向けた打ち手の立案が重要です。
当事務所では、公認会計士・税理士の視点から、中小企業の財務分析を通じた実践的な支援を行っています。経営に数字の強みを取り入れたい経営者方は、ぜひご相談ください。