
この記事では、整備が始まったばかりのM&A支援機関の登録制度を前提に、安心して進めるための実務チェックポイント解説します。
このブログは、2022年11月1日に初公開した記事に最新情報を加味して更新したものです。
そもそもM&Aとは
「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略称です。なお、日本では、組織再編(合併、会社分割)に加え、株式譲渡や事業譲渡を含んだ事業の引継ぎ(譲渡・譲受)のことをさします。
中小M&Aとは
M&Aの中でも、特に「後継者不在の中小企業の事業を、M&A手法により、社外の第三者に引き継ぐこと」をいいます。他方で、「事業承継型M&A」と呼ぶ専門家もいます。なお、「中小M&Aガイドライン」においては、親族内承継や従業員承継は「中小M&A」に含まれません。
M&A支援機関とは
文字通り、M&Aを支援する機関のことです。具体的には、譲渡側、譲受側に対するマッチング支援や、中小M&Aの手続進行に関する総合的な支援(以下、「マッチング支援等」)を行う支援機関のことです。なお、FA(フィナンシャル・アドバイザー)と仲介者の2種類があります。
FA(フィナンシャル・アドバイザー)
FA(フィナンシャル・アドバイザー)とは、譲渡側・譲受側のどちらか一方との契約に基づいて、マッチング支援等を行う支援機関のことです。
仲介者
仲介者とは、譲渡側・譲受側の双方との契約に基づいて、マッチング支援等を行う支援機関のことです。
M&A支援機関登録制度とは?
後継者不在の企業が増えるなか、M&A支援会社も急増しています。一方で、中小M&Aの現場はルール整備が追いつかず、いまは過渡期です。そこで中小企業が安心してM&Aに取り組めるよう、2021年8月に中小企業庁が「M&A支援機関登録制度」を創設しました。この登録制度により、一部補助金の対象は登録機関に限定され、相談・情報提供の窓口も整備されました。
事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)の対象
M&A支援機関の活用に係る費用(仲介手数料やフィナンシャルアドバイザー費用等に限る)については、予め登録されたM&A支援機関の提供する支援に係るもののみが補助の対象となります。
情報提供受付窓口の創設
登録されたM&A支援機関に関するトラブルや不適切対応について、企業などから情報を受け付ける「情報提供窓口」が設けられました。実際に支援を依頼して問題が生じた場合は、この窓口に通報・相談できます。ただし対象は登録機関に限られ、未登録のM&A会社とのトラブルは受け付けの対象外です。したがって、依頼前に登録の有無を中小M&A登録機関データベースで必ず確認しましょう。
M&A支援機関にはどのような機関があるのか
M&A支援機関は属性ごとに特色があります。なお、中小M&A登録機関データベースに登録されている支援機関は以下のとおりです。一時期3,000社を超えていたのですが、2025年8月末時点では2,884社となっています。
法人・個人別の割合は?
登録支援機関のうち、4社中3社は法人です。なお、個人登録は士業専門家が多くを占めています。
2025年8月31日現在
支援機関の種類 | 計 | 法人数 | 個人数 |
---|---|---|---|
M&A専門業者(FA) | 331 (11.4%) | 306 | 25 |
M&A専門業者(仲介) | 674 (23.4%) | 644 | 30 |
金融機関 | 174 (6.0%) | 174 | - |
商工団体 | 2 (0.1%) | 2 | - |
士業等専門家 | 1,126 (39.0%) | 544 | 582 |
M&Aプラットフォーマー | 16 (0.6%) | 16 | - |
コンサルティング会社 | 508 (17.6%) | 482 | 26 |
その他 | 53 (1.9%) | 45 | 8 |
合計 | 2,884 (100.0%) | 2,213 (76.7%) | 671 (23.3%) |
FA、仲介の割合は?
登録支援機関のうち、8割はFA・仲介の両方を扱う機関です。なお、FAのみは約1割ですが、日本固有の特徴です。
支援機関の種類 | 計 | FAのみ | 仲介のみ | FA・仲介 |
---|---|---|---|---|
M&A専門業者(FA) | 331 (11.4%) | 84 | 2※ | 245 |
M&A専門業者(仲介) | 674 (23.4%) | 2※ | 67 | 605 |
金融機関 | 174 (6.0%) | 11 | 4 | 159 |
商工団体 | 2 (0.1%) | 1 | 1 | - |
士業等専門家 | 1,126 (39.0%) | 182 | 29 | 915 |
M&Aプラットフォーマー | 16 (0.6%) | 3 | 3 | 10 |
コンサルティング会社 | 508 (17.6%) | 46 | 20 | 442 |
その他 | 53 (1.9%) | 5 | 2 | 46 |
合計 | 2,884 (100.0%) | 334 (11.6%) | 128 (4.4%) | 2,422 (84.0%) |
以下では、それぞれの支援機関について解説します。
M&A専門業者
マッチング支援等を専門に行う民間業者のことです。M&A専門業者は、契約形態により、FA・仲介者の2種類に分かれます。2025年8月31日現在、FA331、仲介674、合計1,005機関です。
金融機関
融資業務等に加え、融資顧客に対してマッチング支援等を行う金融機関もあります。中小M&Aを検討する場合、まずは自社のメインバンクの登録の有無を確認することをお薦めします。
2025年8月31日現在
金融機関の種類 | 法人数 |
---|---|
都市銀行 | 4 (2.3%) |
地方銀行 | 74 (42.5%) |
信用金庫・信用組合 | 73 (42.0%) |
証券会社 | 5 (2.9%) |
保険会社 | - |
その他 | 18 (10.3%) |
合計 | 174 (100.0%) |
商工団体、商工会、中小企業団体中央会、商店街振興組合連合会等
中小企業の経営全般に関する身近な相談窓口ですが、商工会議所、商工会の登録はありません。なお全国の事業承継・引継ぎ支援センターは、国(経済産業省)から商工会議所等が委託を受けて窓口を設定しているだけですので、ここには含まれません。2025年8月31日現在、登録は2団体のみです。
士業等専門家
弁護士、公認会計士、税理士、中小企業診断士などの国家資格を有する専門家を指します。多くは本来の業務(法律・会計・税務・経営)を中心に活動しますが、一部はM&Aのマッチングやアドバイザリーも担います。下表のとおり、登録済み支援機関の約9割は税理士・公認会計士・中小企業診断士でです。M&Aを検討する際は、まず自社の顧問税理士等が「M&A支援機関登録制度」に登録されているかを確認してください。なお、当事務所は下表の赤字で示した区分に登録済みです。
法人・個人別の割合は?
2025年8月31日現在
士業等専門家の種類 | 法人個人計 | 法人数 | 個人数 |
---|---|---|---|
弁護士 | 46 (4.1%) | 19 | 27 |
税理士 | 456 (40.5%) | 276 | 180 |
公認会計士 | 267 (23.7%) | 125 | 142 |
中小企業診断士 | 264 (23.4%) | 109 | 155 |
社会保険労務士 | 12 (1.1%) | 3 | 9 |
司法書士 | 8 (0.7%) | 1 | 7 |
行政書士 | 73 (6.6%) | 11 | 62 |
合計 | 1,126 (100.0%) | 544 (48.3%) | 582 (51.7%) |
FA、仲介の割合は?
2025年8月31日現在
士業等専門家の種類 | 計 | FAのみ | 仲介のみ | FA・仲介 |
---|---|---|---|---|
弁護士 | 46 (4.1%) | 28 | - | 18 |
税理士 | 456 (40.5%) | 67 | 12 | 377 |
公認会計士 | 267 (23.7%) | 55 | 2 | 210 |
中小企業診断士 | 264 (23.4%) | 21 | 13 | 230 |
社会保険労務士 | 12 (1.1%) | 1 | 1 | 10 |
司法書士 | 8 (0.7%) | 1 | 1 | 6 |
行政書士 | 73 (6.6%) | 9 | - | 64 |
合計 | 1,126 (100.0%) | 182(16.2%) | 29 (2.6%) | 915 (81.2%) |
M&Aプラットフォーマー
M&Aのプラットフォームを運営する支援機関のことです。プラットフォームとは、インターネット上のシステムを活用し、オンラインで譲渡側、譲受側のマッチングを提供するWEBサイトのことです。2025年8月31日現在、登録機関データベースに登録されているのは16機関です。
コンサルティング会社・その他
民間コンサルティング会社や銀行のコンサルティング会社のことです。2025年8月31日現在、登録されているのは508機関です。
M&A会社に依頼する際の注意事項
依頼前に、M&A支援機関制度に登録されているかどうか、確認すべきです。登録していない場合、事業承継・引継ぎ補助金や情報提供窓口が使えません。また「中小M&Aを支援する際の遵守事項」の遵守が義務ではありません。
さらに、他のFA・仲介者にセカンド・オピニオンやマッチングを試みることなど、禁止される行為なども事前に確認が必要です(専任条項)。
契約期間、中途解約についても確認しておくのが無難です。
M&A支援機関の選び方チェックリスト
- 登録の有無(中小企業庁データベースで確認)
- 契約形態(FAか仲介か/セカンドオピニオン可否)
- 専任条項の期間・範囲(過度に長くないか)
- 料金の開示(定義、着手金の有無、成功報酬の根拠)
- 担当者の実績(案件規模・業種の適合)
- 守秘体制(NDAと情報の扱い)
- 利益相反管理(買い手側との関係性)
- DD/PMIへの姿勢(会計・税務・人事・IT まで見据えるか)
M&A登録機関制度FAQ
- Q登録されていないM&A会社でも依頼できますか?
- A
はい、依頼自体は可能です。ただし、補助金の対象外となる場合があります。登録の有無は中小企業庁の公開リストで確認できます。まずは「登録状況」「社名の正式表記」「担当者の経歴」を確かめましょう。
- QFAと仲介、どちらが自社に合っていますか?
- A
目的と体制で選びます。売り手側の利益最大化や交渉の一貫性を重視するならFA。候補母集団の広さやスピードを重視するなら仲介が選択肢です。迷う場合は契約前にセカンドオピニオンを取り、条件(専任、報酬、解約)を比較するようにしてください。
- Q成功報酬はいつ・何に対して発生しますか?
- A
契約書の定義によります。一般的には「最終契約の成立・クロージング」を基準に、株式価値(エクイティ)または企業価値(EV)をベースに算定します。負債引継ぎや運転資本調整の扱い、最低報酬の有無も事前に確認しましょう。
中小M&Aのトラブルについて
近年、中小M&Aで「悪質な買い手」による資金の吸い上げや、譲渡対価の未払い、連帯保証の放置といった深刻な事例が相次いで報じられています。2024年には“ルシアン事件”が象徴例として大きく取り上げられ、仲介会社の関与や買い手の素性チェックの不足が社会問題化しました。こうした事態を受け、業界団体は「不適切な譲り受け側事業者(俗に言う“悪質な買い手”)」の共有リストを整備し、苦情相談の受け皿も拡充しています。
まとめ
本記事では、M&A支援機関登録制度のポイントを整理しました。支援機関は数が多く、選定に迷うのは当然です。実績の確認に加えて、①自社に合う候補先をどれだけ適切に見つけて提案できるか、②専門用語を経営者が理解できる言葉で丁寧に説明してくれるか――この2点を主要な判断材料にしてください。これらを満たす支援機関ほど、意思決定の質とスピードが上がります。