土地の価格差が相続税を減らす?不動産活用の節税ポイント

このコラムは、同じ土地に複数の価格が存在する理由と、その価格差を利用した相続税対策の仕組み、および2022年(令和4年)の最高裁判決以降に注意すべき点について解説します。

目次

はじめに

「現金で1億円を持つより、不動産に組み替えたほうが相続税評価額は下がる」

このような話を耳にしたことがある方は少なくありません。実際、土地には売買価格だけでなく、相続税の計算に使う価格、固定資産税の計算に使う価格など、目的ごとに異なる複数の価格が存在します。この価格差は、相続・事業承継における不動産活用の基本的な仕組みです。ただし、2022年の最高裁判決以降、行き過ぎた活用には注意が必要です。

土地には5つの価格がある(一物五価)

一つの商品には一つの価格が付くのが通常です。しかし、土地には次の5種類の価格が存在し、これを「一物五価」と呼びます。

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価格の種類決定・公表主体基準日・公表時期調査地点数(全国)主な用途
実勢価格(時価)──(市場での取引)随時(取引ごと)──実際の売買
地価公示価格国土交通省基準日1月1日・毎年3月公表約26,000地点一般的な土地取引の指標・公共事業用地の取得価格算定
基準地価都道府県(東京都基準日7月1日・毎年9月公表約21,000地点地価公示を補完する指標
相続税路線価国税庁基準日1月1日・毎年7月1日公表約320,000地点相続税・贈与税の算定基礎
固定資産税評価額市区町村(東京都原則3年に1度、3月1日公表──固定資産税等の算定基礎

これらは決定主体・基準日・算定目的がそれぞれ異なります。相続税路線価は地価公示価格のおおむね80%が目安です。固定資産税評価額は、同じくおおむね70%が目安です。つまり、税務上の評価額は実勢価格より低い水準になりやすいということです。ただし、これはあくまで目安です。実際の乖離幅は、土地の個別事情(形状・接道状況等)によって変動します。

【令和8年地価公示】全国平均は2.8%上昇——バブル崩壊後最大の伸び

2026年1月1日時点の地価公示価格が2026年3月17日に公表されました。全国平均(全用途)は前年比2.8%の上昇となり、5年連続の上昇です。この伸び率は、バブル崩壊後の1992年以降で最大となりました。また、用途別では、住宅地が2.1%、商業地が4.3%の上昇です。

東京都全域では、全用途平均8.4%の上昇となりました。また、住宅地は6.5%、商業地は12.2%の上昇です。特に東京23区の住宅地は9.0%の上昇でした。前年(令和7年)の7.9%から、上昇幅が拡大しています。なお、上位は港区16.6%、台東区14.2%、品川区13.9%です。また、都心5区の住宅地平均は13.0%の上昇でした。

土地の評価水準が上がると、相続税路線価等も連動して上がりやすくなります。相続税路線価は、地価公示価格を踏まえて毎年7月に改定されます。そのため、地価上昇が続く局面では評価額も上がりやすくなります。納税資金や自社株評価への影響を含め、早めの現状確認をおすすめします。

不動産を活用した相続税対策の仕組み

財産評価基本通達では、相続税路線価は地価公示価格の80%が目安です。つまり、100の価値の土地でも、相続税評価額は80程度になり得ます。路線価のない地域の土地は、固定資産税評価額に倍率をかけて評価します。また、建物については、固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となるのが原則です。

したがって、現金のまま保有するよりも、同額を不動産に組み替えたほうが、相続税評価額は低くなる場合があります。さらに、所有する土地に賃貸物件(アパート等)を建てると「貸家建付地」としての評価減が適用され、評価額はさらに下がります。加えて、借入金で賃貸物件を建てた場合、不動産の評価額の低下と借入金の残高が相殺され、相続税評価額が実質的にマイナスになるケースもあります。

2022年(令和4年)4月19日最高裁判決——過度な対策への警鐘

この価格差を利用した対策自体は、財産評価基本通達に基づく通常の評価方法です。しかし、評価額と実勢価格の乖離が著しい場合には、通達どおりの評価によることが著しく不適当と認められ、国税庁長官の指示により通達によらない評価(実勢価格に近い鑑定評価)が行われることがあります。これは財産評価基本通達6項(いわゆる総則6項)に基づく取扱いです。

2022年4月19日の最高裁判決は、この総則6項の適用が争われた事案で、国側の主張を認めました。判決の背景となった事案では、購入額約13.9億円の不動産について、相続税申告では約3.3億円と評価し、購入時の借入れと相殺して相続税を0円として申告していました。これに対し国税当局は、不動産鑑定評価額に基づき約12.7億円と評価を見直し、相続税額を約2.4億円とする更正処分を行い、この処分が最高裁で認められています。

今後も、次のような要素が重なる相続対策には注意が必要とされています。

  1. 近い将来、相続が発生すると予測される者が、
  2. 相続税の負担軽減を目的として、
  3. 銀行から多額の融資を受け、
  4. 不動産を購入し、
  5. 通達評価額(路線価等)と時価とに大きな乖離がある相続税の申告を行った

なお、この判決は「路線価による評価が使えなくなった」という意味ではありません。通常の相続であれば、これまでどおり財産評価基本通達による評価が原則です。問題となるのは、相続税の圧縮のみを目的とした極端なスキームです。

事業承継における留意点

不動産の評価は、個人の相続税だけの論点ではありません。会社が保有する事業用不動産・賃貸用不動産の評価額は、自社株評価(純資産価額方式)にも影響します。また、相続・贈与のタイミングで路線価が上昇していれば、納税資金の準備や金融機関との交渉にも波及します。

不動産だけを切り離して検討すると、自社株評価・納税資金・承継方法の選定など、事業承継全体の設計との整合性を欠くことがあります。不動産の評価・対策は、事業承継全体の中で検討することが重要です。

まとめ

土地には「一物五価」と呼ばれる複数の価格があります。相続税では、売買価格ではなく相続税路線価等を基準に評価します。この評価方法を活用した対策は現在も有効な手法です。ただし、2022年の最高裁判決が示したとおり、相続税の圧縮のみを目的とした過度な対策は否認されるリスクがあります。また、令和8年地価公示が示すとおり地価の上昇局面が続いており、不動産の評価額は今後も変動する可能性があります。不動産は相続税だけでなく、自社株評価や事業承継後の財務にも影響するため、単独ではなく事業承継全体の視点で検討することをおすすめします。

後継者、株式、財務、M&Aなどを含めて現状を確認し、何から着手すべきかを明確にします。

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この記事を書いた人

種山公認会計士・税理士事務所/代表
TMC 株式会社/代表取締役
公認会計士・税理士・中小企業診断士

大学卒業後、大手監査法人で上場企業の法定監査や上場準備支援等に従事。その後、証券会社で中小企業オーナー向けの自社株対策・資本政策、税理士法人で税務実務、経営コンサルティング会社で財務支援を経験し独立。実務経験は通算27年。

現在は、東京・日本橋を拠点に、中小企業のオーナー経営者を対象として、
・自社株評価・株価対策
・贈与・相続・M&Aを含む事業承継対策
・財務改善・資金繰り・銀行対応
・後継者・幹部の育成と会議運営の支援
を行っています。

相続税対策や株価対策にとどまらず、「会社を誰に、どのように引き継ぐか」という意思決定を、経営者・後継者・ご親族が納得して行えるよう、数字と経営の両面から支援することを専門としています。

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