公認会計士・税理士 種山 和男 のブログ

事業承継税制は個人でも使える?

最終更新日:2022年10月19日

事業承継税制には法人版と個人版があります。今回は、個人版事業承継税制を解説します。

【この記事を読んで得られること】

  • 個人版事業承継税制とは?法人版との違いは?
  • 納税猶予の対象となる特定事業用資産とは?
  • 小規模宅地の特例との併用は可能?

個人版事業承継税制とは?

2008年5月に経営承継円滑化法が成立しました。これを受けて、2009年度税制改正にて法人版事業承継税制が創設されました。その時点では、個人事業主が事業承継税制を活用するには法人成りが必要でした。その後、個人事業者の事業承継を促進するため、2019年度税制改正において、個人事業者が所有する事業用資産の承継に係る相続税・贈与税を100%納税猶予する「個人版事業承継税制」が創設されました。また、遺留分の民法特例も個人版が創設されました。

【参考】ブログ「自社株式を遺留分から除外できる?

法人版との違いは?

個人版、法人版は、納税猶予の対象資産が異なります。個人が直接所有する不動産を、法人では株式という形で間接的に所有しています。したがって、事業規模が大きければ、法人化を検討してもよいかもしれません。

【参考】ブログ「個人か、それとも法人か

個人版事業承継税制の概要

この制度は時限措置?

個人版事業承継税制は10年間の時限措置です。なお、法人版には一般措置と特例措置があり、特例措置は時限措置ですが、一般措置は恒久的なものです。

いつまでに何をすればよいか?

2024年3月31日までに「個人事業承継計画」を提出する必要があります。また、2028年12月31日までに、現事業者から後継者に事業用資産を生前に贈与するか、相続(遺贈を含む)する必要があります。なお、贈与は事業者の意思でコントロールできますが、相続はコントロールできません。したがって、計画的かつ早めに対応する必要があります。

  1. 事前の計画策定
    期間:2019年4月1日から2024年3月31日まで(5年間)
    実行:都道府県庁に「個人事業承継計画」を提出
  2. 適用期限
    期間:2019年1月1日から2028年12月31日まで(10年間)
    実行:後継者が贈与・相続(遺贈を含む)により特定事業用資産を取得

贈与税の納税猶予の概要

後継者が、贈与により取得した特例受贈事業用資産に係る贈与税が100%猶予されます。なお、特例受贈事業用資産とは、特定事業用資産のうち贈与税の納税猶予の適用を受けるもののことです。
この制度の適用を受けるには、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の「認定」を受け、事業を継続すること等が求められます。また、事業継続後、後継者が死亡した等の一定の場合には、猶予された贈与税が免除されます。
なお、納税猶予適用後は、原則として都道府県への報告(年次報告)は必要ありません。ただし、税務署へは、3年に一度報告(継続届出)をする必要があります。

相続税の納税猶予の概要

後継者が、相続(又は遺贈(死因贈与を含む))により取得した特例事業用資産に係る相続税が100%猶予されます。なお、特例事業用資産とは、特定事業用資産のうち相続税の納税猶予の適用を受けるもののことです。
この制度の適用を受けるには、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の「認定」を受け、事業を継続すること等が求められます。また、事業継続後、後継者が死亡した等の一定の場合には、猶予された相続税が免除されます。
なお、納税猶予適用後は、原則として都道府県への報告(年次報告)は必要ありません。ただし、税務署へは、3年に一度報告(継続届出)をする必要があります。

贈与税の納税猶予中に贈与者が死亡した場合

贈与者(先代事業者)が死亡した場合、猶予されていた贈与税は免除されます。その代わり、贈与を受けた特例受贈事業用資産を、後継者が贈与者(先代事業者)から相続(又は遺贈)により取得したものとみなして、後継者に相続税が課税されます(贈与時の価額で計算)。なお、都道府県知事の確認(切替確認)を受けることで、相続税の納税猶予を受けることもできます。

特定事業用資産とは?

特定事業用資産」とは、先代事業者の事業の用に供されていた資産で、先代事業者の贈与又は相続開始の年の前年分の事業所得に係る青色申告書の貸借対照表に計上されているものです。

  1. 宅地等(400㎡まで)
  2. 建物(床面積800㎡まで)
  3. 2.以外の減価償却資産 
    固定資産税の課税対象となるもの
    自動車税・軽自動車税の営業用の標準税率が適用されるもの
    ・その他一定のもの(一定の貨物運送用及び乗用自動車、乳牛・果樹等の生物特許権等の無形固定資産

また特定事業用資産のうち相続税の納税猶予の適用を受けるものを「特例事業用資産」といい、贈与税の納税猶予の適用を受けるものを「特例受贈事業用資産」といいます。

除かれる事業は?

不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業は除かれます。なお、下宿等のように、部屋を使用させるとともに食事を提供する事業は、不動産貸付業に該当しません。

親族が所有する不動産は含まれる?

先代事業者と生計を一にする親族が所有し、かつ、先代事業者が事業の用に供していたものは、特定事業用資産に含まれます。

手続の流れ

贈与・相続それぞれの手続の流れは以下のとおりです。なお、経営承継円滑化法の申請は、都道府県が窓口となります。

小規模宅地等の特例と併用できる?

個人事業主の事業用財産で最も多く占めるものは?

下記は、純資産4,800万円超の個人事業主が所有する事業用資産の構成割合です。
土地39.9%、建物25.6%を合わせて不動産が60%以上を占めています。
したがって、土地の相続税評価額が80%減額される小規模宅地の特例と比較検討するケースが多いと思われます。

出典:中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)

小規模宅地等の特例とは

相続等により取得した宅地等のうち、被相続人(又は被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族)の事業の用(又は居住の用)に供されていた一定の宅地等について、一定の面積までの部分につき、その相続税の課税価格を下記のとおり減額する特例です。

出典:国税庁「個人版事業承継税制

特例の適用には、その宅地等を取得した者が、一定の要件を満たす必要があります。
要件として、相続税の申告期限まで、その宅地等を保有し、事業の用(又は居住の用)に供している等があります。なお、相続開始前 3 年以内に、新たに事業の用に供された一定の宅地等は、特定事業用宅地等及び貸付事業用宅地等の対象から除外される点は注意が必要です。

個人版事業承継税制と小規模宅地等の特例の主な違い

両者の相違点は、贈与税・相続税の支払いの猶予か、相続税の支払額が減額されるか、です。したがって、この違いを把握した上で検討する必要があります。

出典:国税庁「個人版事業承継税制

個人事業承継計画、経営革新等支援機関所見の記載例

下記は中小企業庁から公表されている個人事業承継計画の記載例です。

  • 事業内容、従業員の数
  • 先代事業者の氏名
  • 個人事業承継者の氏名
  • 特定事業用資産の承継時期
  • 経営上の課題と対応策
  • 承継後の経営計画
同上

左記は、認定経営革新等支援機関による所見の記載例です。円滑化法の認定の申請にあたっては、この所見が必要です。この例では、認定経営革新等支援機関が銀行のため、税務面については顧問税理士が対応していることを明記しています。これは税務に関して、税理士法との兼ね合いからこういった表記をしています。

【参考】ブログ「顧問税理士に経営相談ができない、、、

まとめ

さて、いかがでしたか。個人事業で規模が大きければ法人化しているケースが多いと思います。したがって、該当する個人事業主の数はかなり少ないと想定されます。なお、実際に活用しているのは、個人で運営しているクリニック、製造用機械を有する製造業者などが多いようです。

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実際に実行する場合は、顧問税理士等の専門家に必ずご相談ください。
また法制度の改正等によって内容の見直しが必要な場合もございます。あらかじめご了承ください。

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