このコラムでは、中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」が示す「事業承継に向けた5つのステップ」について解説します。
「事業承継ガイドライン」とは
中小企業庁の「事業承継ガイドライン」は、事業承継に向けた準備を「5つのステップ」に整理しています。
ステップ1〜3は承継方法にかかわらず共通し、ステップ4以降は想定する承継方法によって進め方が分かれます。なお、「事業承継ガイドライン」の第3版は2022年3月に公表され、2023年12月・2024年4月に一部記載が更新されています。

出典:中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」準備の必要性の認識
事業承継は、オーナー社長にとって経営者人生における最後の大仕事です。しかし、日々の業務と比べて緊急性が見えにくく、先送りされやすいテーマでもあります。後継者の育成や株式・資産の承継には時間を要するため、後継者候補の有無にかかわらず、まず準備の必要性を認識することが出発点です。
経営状況・経営課題等の「見える化」
現状を正確に把握しないまま対策を進めると、方向性を誤りやすくなります。したがって、現状を見える化する必要があります。
会社の経営状況
ヒト・モノ・カネ・情報の状況を整理します。中小企業庁の「ローカルベンチマーク(ロカベン)」などを活用する方法もあります。
事業承継課題
想定する承継方法によって、確認すべき事項が変わります。
- 親族内承継
経営権限・株式の引き継ぎ方、相続人との調整、税負担・資金の確保 - 従業員承継
自社株の買取資金の確保に加え、経営者保証の引き継ぎ・解除・見直しについて、金融機関を交えて検討する必要があります - 第三者承継
M&Aを含めた検討(事業の一部譲渡も選択肢)
経営改善(磨き上げ)
引き継ぎ先の選択肢を広げるには、収益力や財務内容が安定し、社長個人への依存度が低いことが重要です。磨き上げは、次の2つに分かれます。
本業の競争力強化
自社の「強み」を顧客目線で把握し、「弱み」を改善します。後継者候補・幹部・外部専門家などから意見を聞くことも有効です。
経営体制の総点検
規程・マニュアルの整備、不要資産や過大な借入金の整理など、経営資源のスリム化に取り組みます。
実行に向けた準備
親族内承継・従業員承継の場合
自社や自社を取り巻く状況を整理したうえで、「いつ、誰に、何を、どのように承継するか」を具体的な計画にまとめます。承継には、「経営そのものの承継」と「資産の承継」という2つの視点があります。計画には両方の視点を反映し、現経営者と後継者が協力して作成することが重要です。
第三者への承継の場合
M&Aを含む社外への引き継ぎを検討します。具体的な工程は、別のコラムで解説しています。
事業承継・M&Aの実行
事業承継の実行は、代表者の変更や株式の移転だけでは完了しません。
親族内承継・従業員承継では、主に次の事項を並行して進めます。
- 経営権限・取引先との関係・経営ノウハウの引き継ぎ
- 株式や事業用資産の移転
- 後継者以外の家族・株主との調整
- 借入金や経営者保証の整理
- 金融機関・取引先・従業員への説明
M&Aでは、候補先の探索から契約・決済・引き継ぎ後の対応までを進めます。実行段階では、税理士・公認会計士・弁護士・金融機関・M&A支援機関など、各分野の専門家と役割を分担しながら進める必要があります。
事業承継で生じやすい「順番のずれ」
実務では、次のような順序のずれが生じる場合があります。
税金対策を先に進める
自社株の贈与や株価引き下げを先行させた後で、後継者本人に継ぐ意思がないと判明する場合があります。税負担だけを基準に先行させず、誰に、何を、どのように引き継ぐかという方針とあわせて検討することが重要です。
M&Aの実行支援だけで承継方針を判断する
M&A仲介会社やFAなどのM&A支援機関は、相手先の探索、条件交渉、取引の実行を支援する専門家です。親族内承継・従業員承継・M&Aのどれを選ぶかという方針の検討は、取引の実行支援とは別の工程として整理することが重要です。
まとめ
事業承継ガイドラインが示す「5つのステップ」を解説しました。事業承継では、株式や税金など一部の対策だけを先に進めると、後継者、財務、経営者保証、家族との整合が取れなくなる場合があります。まず全体の流れを把握し、自社が今どの段階にあるかを確認することが、準備の出発点です。
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