種山会計士

今回は、事業承継に向けた5ステップについて解説します。
・円滑な事業承継には準備が必要
・円滑な事業承継に向けた5ステップとは?
・後継者候補の有無が対策の分かれ道
あなたは今どの段階ですか?

事業承継に向けた5ステップとは?

円滑な事業承継を進めるためには、準備が重要です。事業承継ガイドライン(中小企業庁)では、5ステップが提唱されています。後継者候補の有無によって、ステップ4で二つに分かれます。以下、ステップごとにコメントします。

出典:中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)

事業承継に向けた準備の必要性の認識

後継者候補の有無に関係なく、一番重要なステップです。事業承継は、オーナー経営者最後の大仕事でありながら、緊急性がないため先延ばしにされがちなテーマです。事業承継はオーナー経営者の相続を想定させるテーマのため、親族もなかなか口出しできない領域でもあります。そのため、70歳以上になって初めて支援機関に相談される方も少なくありません。また、周りの心配もよそに、生涯現役という名のもとに本人は全く気にしていないケースもあります。我が国の事業承継が問題になっているのはこのあたりも影響しています。

経営状況・経営課題等の把握(見える化)

後継者候補の有無に関係なく、まずは現状を正確に把握する必要があります。この現状把握が間違っていると、その後の対策も違った方向にいってしまいます。現経営者だけでなく、後継者候補、支援者と目線を合わせる点でも重要です。「見える化」には大きく分けて二つあります。

  1. 会社の経営状況の見える化
  2. 事業承継課題の見える化

会社の経営状況の見える化

経営資源には、ヒト・モノ・カネ・情報があります。中小企業庁から出ているローカルベンチマーク(略称:ロカベン)による経営診断を行うのもよいと思います。ロカベンでは、「財務分析」と「非財務」の両面から経営診断を行います。以下のブログもご参照ください。

【参考】ブログ「ローカルベンチマークとは」「EBITDAとは?
    中小企業庁ミラサポplus「マンガでわかる「ローカルベンチマーク」

事業承継課題の見える化

会社の経営状況の把握と同時に、事業承継の課題を把握する必要があります。まず、後継者候補の有無によって、今後の対策が変わってきます。親族内承継の場合、後継者が経営しやすいように、相続税対策もかねた自社株対策を検討する必要があります。また、従業員承継の場合、自社株の買取資金の確保や経営者保証の引継ぎを検討する必要があります。後継者候補が社内にいない場合、外部の第三者への引継ぎを検討することになります(M&A)。M&Aというと大規模な会社が想定されますが、最近は小規模企業での事業引継ぎも活発化しています(いわゆるスモールM&A)。

【参考】ブログ「息子がいますが会社を継ぐ 気がありません。どうしたらよいですか。

事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)

後継者候補の有無に関係なく、誰かに会社を引き継ぐ場合、業績が良いほうが候補が多くなるのは当然です。このステップで、経営改善ができずに廃業を選択するケースも多いです。親族内承継にあっては、子が継ぎたくなるような会社にする必要があります。M&Aであっても、業績が良いほうが、引継ぎ先の選択肢が広くなります。

  1. 本業の競争力強化(会社経営の攻めの部分)
  2. 経営体制の総点検(会社経営の守りの部分)

本業の競争力強化

本業の競争力を強化するためには、自社の「強み」を知り、「弱み」を改善する取組みが必要です。現経営者、後継者候補、従業員、外部専門家を交えて、「事業価値を高めるレポート」を作成することが効果的です。なお、「強み」とは、自社目線ではなく顧客目線である点に注意が必要です。自分たちが思っている「強み」と顧客が感じているものにズレがある可能性もあります。まずは、得意先に「なぜ自社から購入してくれるのか」聞いてみるのもよいと思います。

【参考】ブログ「事業価値を高めるには?

経営体制の総点検

「本業の競争力強化」が会社の攻めの部分だとすると、経営体制の総点検は会社の守りの部分に該当します。例えば、各種規程類、マニュアルを整備し、業務が効率良く流れる体制づくりなどに取り組むことが大切です。また、事業に必要のない資産や滞留在庫の処分や、余剰負債の返済を行うなど経営資源のスリム化に取り組むことも重要です。

事業承継計画の策定(親族内・従業員承継の場合)

自社や自社を取り巻く状況を整理した上で、「いつ、誰に、何を、どのように承継するのか」、具体的に計画を立てる必要があります。事業承継には、経営そのものの承継資産の承継の2つの視点があります。事業承継計画を立てる際は、2つの視点を考慮する必要があります。また、事業承継計画は、現経営者と後継者が協力して作成すべきです。計画策定時に現経営者と後継者がディスカッションすることが経営承継の一環となります。なお、事業承継計画は、取引先や従業員、取引金融機関等との関係も考慮して策定し、策定後に共有することで関係者の協力も得られやすくなります。

【参考】ブログ「事業承継対策2つの視点

M&Aの工程の実施(社外への引継ぎの場合)

親族内、会社内に後継者がいない場合、外部の第三者への引継ぎを検討します。具体的なM&Aの工程については、以下のブログをご参照ください。

【参考】ブログ「中小企業がM&A会社に相談したら、、、

事業承継・M&Aの実行

親族内承継、従業員承継、M&Aのいずれかであっても、実際に実行する際は、税務や法務といった専門的事項が生じるため、専門家と協力して行う必要があります。

まとめ

今回は、事業承継ガイドラインの「事業承継に向けた5ステップ」を解説しました。原文が読みたい方は「事業承継ガイドライン(第3版)」をご参照ください。実際の相談を受けていると、局所的な対策をされている経営者の方も多いです。体系を把握して、自分が現在どの地点にいるのか、把握することも重要だと思います。