公認会計士・税理士 種山 和男 のブログ

事業価値を高めるには?

最終更新日:2022年9月2日

今回は「事業価値を高める経営レポート」作成マニュアル((独)中小企業基盤整備機構)の紹介です。

【この記事を読んで得られること】

  • 「事業価値を高める経営レポート」とは?
  • 「知的資産」と「知的財産」は混合しやすい?
  • 大切なものほど目に見えにくい?

なぜ今「事業価値を高める経営レポート」なのか

この作成マニュアルは、中小機構が約10年前に発行(2012年5月)したものです。しかしながら、内容的に普遍的なものであり、古さは感じません。私自身、2021年3月まで中小機構の専門家をしていた際、実際に作成した経営者からの評判は良く、ただその割に、あまり知られていない知る人ぞ知るマニュアルでもあります。最近、ある経営者との雑談中に「過去にこのレポートを作成して良かった」と言われ、今回あらためて紹介しようと思ったしだいです。

「事業価値を高める経営レポート」とは

レポートの作成目的は、自社の「知的資産」を知り、まとめて、伝えて、深めていくことです。最終的に、A3版1枚にまとめることがキモです。自社の強みを把握するにあたって、簡潔に過不足ない言葉を選ぶ過程が重要です。自社の強みを内部で共有し、外部へ発信することにより、事業価値を高めていきます。

現場の反応は

中小機構の専門家をしていた際、何度か金融機関のワークショップに参加しました。このレポートを作成した経営者の満足度は高く、評判は良かったです。また、金融機関担当者も「知っていると思っていた融資先のことをぜんぜん知らなかった」、「融資先の事業をよく理解できた」という意見が多かったです。なお、作成した経営者の中には、同業他社には教えないで欲しい、と言う社長もいました。冗談のようでしたが、半分本気だったようにと思います。

「知的資産」とは

このレポートに出てくる「知的資産」ですが、以前のブログで解説しました。重要なので再掲します。
【参考】「事業承継対策2つの視点

知的資産
従来のバランスシート上に記載されている資産以外の無形の資産であり、
企業における競争力の源泉である、
人材、技術、技能、知的財産(特許・ブランドなど)、組織力、経営理念、顧客とのネットワークなど、
財務諸表には表れてこない目に見えにくい資源の総称。

「知的資産経営」とは

なお、自社の強み(知的資産)をしっかりと把握し、
それを活用することで業績の向上に結び付ける経営のこと
知的資産経営といいます。

「知的資産」と「知的財産」は混合しやすい

「知的資産」という単語自体が「知的財産」と似ていて、混合されているケースも多いです。理解する際は、下記のイメージ図が分かりやすいです。なお、通常、経営理念や顧客とのネットワークは、「知的財産」とは言いません。

知的資産経営の実践の流れ

知的資産経営実践の流れは以下のとおりです。「自社の知的資産を知る」というのは簡単なようですが、それほど簡単ではありません。社内の人間だけで作成する場合、弱みだけたくさん出てくるケースが多いです。その理由として、「強み」は、自分達で当たり前にできていることが該当するケースが多く、内部からは気づきにくいためです。

知的資産経営報告書ワークショップであった話

過去に「事業価値を高める経営レポート」ワークショップを行った際、新卒のリクルートがなかなかうまくいかない、という会社がありました。ただよく聞いてみると、新卒ですぐに退職する人は少ないとのことでした。さらに突っ込んで聞いてみると、その理由として、1年目に先輩がチューターとして世話をする習慣があるとのこと。「それって、リクルートのときに伝えてますか」と聞いたところ、まったく伝えていないとのことでした。

この話は、作り話のようですが実際にあったやりとりです。「会社内部で当たり前だと思っていることが外部から見ると当たり前ではない」というのはよくあることです。したがって、「強み」というものは、内部からはわかりにくいのです。

「事業価値を高めるレポート」の骨子

さて、「事業価値を高めるレポート」は、以下の5つのステップで作成します。自社の「知的資産」を知って、まとめて、A3用紙1枚に落とし込んでいきます。

  • STEP1:企業概要
  • STEP2:内部環境
  • STEP3:外部環境
  • STEP4:今後のビジョン
  • STEP5:価値創造のストーリー

社長だけで作成するのではなく、従業員も巻き込むと、お互いに気づきがあります。また、自社内部だけでなく、外部の専門家を交えて作成すると、より客観的な気づきが得られます。慣れている専門家であれば、社内だけでは気づかない点も引き出してくれるはずです。

レポートの活用方法

「事業価値を高めるレポート」は「作成したら終わり」ではありません。出来上がったものを大事に机の中にしまっておく、という性質のものではないのです。したがって、「知的資産」は目に見えにくいので、「事業価値を高めるレポート」を作成していく過程で、現経営者、後継者、従業員との間の認識ギャップを埋めていく役割があります。
大切なものほど目に見えにくいものです。ただ見える化後は、金融機関、取引先、新規採用予定者への情報発信に活用できます。

種山公認会計士事務所作成(無断転載・転用不可)

まとめ

さて、いかがでしたか。このレポートは、実際に作成した経営者の評判も良く、もっと周知されても良いと思います。ただ私自身は、「知的資産」という単語はあまり好きではありません。経営者の方には、「社長のネットワークとか、見えないけど会社の財産ですよね」「顧客先リストとか、単に住所が羅列されているのではなく、その関係性は会社の財産ですよね」と言ったほうが意味がよく伝わります。単語の定義よりも、むしろ「目に見えにくい」大切なものを内部・外部からも目に見える形にすることが重要です。

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