最終更新日:2022年11月2日
会社を経営していくなかで、利益と手元の現金(キャッシュ)が重要であることに異論はないと思います。今回は、両者間でズレが生じる理由と「 キャッシュ フロー 経営の重要性」について解説します。
【この記事を読んで得られること】
- 利益とキャッシュの違い
- キャッシュフロー経営とは?
- 中小企業にはキャッシュフロー計算書よりも資金繰り表が大事
黒字でも倒産することがある
会社が倒産するのは損益が赤字になったからではありません。たった一つの要因は、資金繰りが悪化して手元に現金がなくなったからです。
損益計算書の利益と手元の現金( キャッシュ )は連動しません。
赤字であっても手元資金が潤沢な会社もあります。黒字であっても手元の現金が常に少ない会社もあります。
この差は何なのか?
利益とキャッシュ の違い
キャッシュフロー経営に取り組む前に、「会計上の利益」と「キャッシュフロー」との違いを把握しておく必要があります。
利益は会計上のルールで計算
利益は会計上のルールに従って計算されます。会計には様々なルールがあり、それぞれに複数の選択肢があります。そこで、どのルールを選ぶかは経営者が決めます。したがって、選択したルールによって利益が異なってきます。一方、キャッシュフローは実際の現金の流れですので、基準や方針によって異なることはありません。
利益とキャッシュは月ズレを起こす
例えば、自社製品を倉庫から出荷した際に売上を計上している場合、利益は出荷された月に計上されます(企業会計は「発生主義」というルールに基づいて収益・費用が計上されます)。代金が翌月に入金される場合、利益とキャッシュの計上は月ズレを起こしています。極端なケースでは、売上を上げてから数か月たたないと入金されない場合、利益は計上されているのに、手元に現金がない状態、になります。いわゆる「黒字倒産」が発生するのはこのためです。
「キャッシュフロー経営」とは
一定期間(事業年度)に、会社に流入した現金(キャッシュ インフロー)、流出した現金(キャッシュアウトフロー)の差額をキャッシュフローといいます。
手元の現金の増加を第一に考える経営を キャッシュ フロー経営といいます。
企業を人に例えると、お金は血液に該当します。
従って、資金繰りが悪化すると、人が血行不良で体調を崩すのと同様のことが起きます。
キャッシュ フローの改善にあたっては、売上高の増加、利益率の改善、固定費の削減、に分解して、優先度に応じて対策を立てていきます。
どの活動からキャッシュフローが生まれているのか
キャッシュフロー経営を行うにあたって、「どの活動からキャッシュフローが生まれているのか」を把握することが重要になってきます。
それを把握するための計算書類として、キャッシュフロー計算書があります。
キャッシュフロー計算書の構造
キャッシュフロー計算書は、貸借対照表の現預金の増減(期首残高-期末残高)を「営業キャッシュフロー」「投資キャッシュフロー」「財務キャッシュフロー」に分解したものです。
中小企業でよくあるケース
例えば、会社の業績が赤字で、経営者個人が会社に資金を投入している場合は、
- 営業キャッシュフロー:マイナス(会社の業績が赤字)
- 投資キャッシュフロー:不明
- 財務キャッシュフロー:プラス(経営者個人が会社に貸し付けている)
となり、営業キャッシュフローがマイナスでも事業が継続できています。
この場合、営業キャッシュフローの改善が急務です。前期と比較して、なぜ利益が減少しているのか?なぜ売掛金が増加しているのか?(回収遅延が起きているのか?)、なぜ在庫が増加しているのか?、さらにブレークダウンして課題を探っていきます。
ただし、中小企業がキャッシュフロー経営に取り組むには、以下の2つの点で限界があります。
キャッシュフロー計算書はどこにある?
まず、中小企業経営者のあなたは、キャッシュフロー計算書を見たことがありますか?
ほとんどの方は見たことがないと思います。なぜなら、キャッシュフロー計算書が必須なのは上場会社等のみです。中小企業では必須の決算書類ではありません。
したがって、実際に自社のキャッシュフロー計算書を見たことがある中小企業経営者の方は数えるくらいしかいないと思います。過去の税務申告書の中を探してもキャッシュフロー計算書はないのです。
会計ソフトで自動的に出てくるものもあります。しかし、各キャッシュフローの数値が不正確なケースが多いので、会計ソフトの設定を調整して正しい設定にする必要があります。
したがって、各活動別のキャッシュフローの増減理由を確認するには、税務申告とは別にキャッシュフロー計算書を作成する必要があります。
キャッシュフロー計算書は過去の数字
キャッシュフロー計算書は、貸借対照表の現預金の増減(期首残高-期末残高)を分解したものです。つまり、過去の数値となります。
法人税の税務申告書の提出期限は決算日から2か月以内です。また、中小企業にとって、キャッシュフロー計算書は法定書類ではありません。したがって、税務申告とは別に作成することになります。これでは、タイムリーにキャッシュフローを把握できません。
【参考】中小企業庁「中小企業の会計31問31答」
中小ではキャッシュフロー計算書よりもまずは資金繰り表
そこで、その弱点を補填するものとして「資金繰り表」があります。資金繰り表とは、少なくとも3か月くらい先までの現預金の増減を予測して、資金ショートに備えるものです。中小企業に必要なのは、過去数値の「キャッシュフロー計算書」よりも、未来数値の「資金繰り表」です。「キャッシュフロー計算書」よりもまずは「資金繰り表」の作成を優先すべきです。
6か月先の資金計画を立てられるようになってから、キャッシュフロー計算書を作成し、キャッシュフローの改善に取り組むのが良いと思います。
【参考】ブログ「知らないと損する「日繰り表」の知識」
業績が悪い企業ほど資金繰り表を作成していない
普段、経営相談を受けていると、業歴が長い中小企業ほど「資金繰り表」を作成している割合が多い印象です。また、業績がよくない企業ほど資金繰り表を作成していません。手元の通帳だけを見ていますので、将来の不安から何をすればよいのかわからなくなっているケースも多いように思います。もう少し早めに相談してくれれば対策が立てられたのに、というケースも多いです。
まとめ
会社経営にあたって、重要なのは利益よりもキャッシュです。「資金繰り表」は、金融機関から融資を受ける際にも必ず提出を求められる資料です。また将来の事業計画にもつながっています。作り方がよくわからなければ、まずは顧問会計士・税理士に相談してみてください。自分で作成してみたい方は、下記サイトでメルマガ会員登録していただくとフォーム(ひな型)がダウンロードできます。また作成方法も解説しています。
\ 当事務所監修の資金繰り表、日繰り表フォームがダウンロードできます /
当ブログはできるだけ専門用語をかみ砕いてわかりやすさを優先しており、正確性を保証するものではございません。当ブログのご利用によって生じたいかなる損害に対しても、当事務所は賠償責任を負いません。
実際に実行する場合は、顧問税理士等の専門家に必ずご相談ください。
また法制度の改正等によって内容の見直しが必要な場合もございます。あらかじめご了承ください。
このホームページに掲載のコンテンツの無断転載・転用を禁じます。
この記事を読んで参考になりましたらシェアをお願いします!