種山会計士

このコラムでは、2026年4月20日に国税庁が開催した「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」(第1回)の内容をもとに、自社株評価制度の見直し方向性と、オーナー社長が今確認すべき論点を整理します。

2026年4月20日、国税庁は有識者会議の第1回を開催しました。正式名称は「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」です。現行の自社株評価制度を見直す正式な検討プロセスが始まりました。

なぜ今、この見直しが始まったのか。何が変わりうるのか。有識者会議の資料をもとに整理します。


今回の有識者会議設置の起点は、会計検査院による令和5年度決算検査報告です。同報告では、類似業種比準価額の中央値が純資産価額の約27%にとどまることが確認されました。「公平性が確保されているとはいえない」と指摘されています。

【参考】「令和5年度決算検査報告」会計検査院

国税庁が有識者会議に提出した直近データ(令和4・5年分)でも、この割合は約26.1%でした。乖離は改善していません。

評価額を意図的に引き下げるスキームも確認されています。国税庁はこれらについて「個別対応ではなく、制度として対処する必要がある」と位置づけました。


有識者会議の資料では、見直しの方向性として4つの論点が整理されています。


① 評価の公平性確保──規模区分間の格差を是正する

現行制度では、規模が大きい会社ほど申告評価額の純資産価額比率が低くなります。令和4・5年分の中央値は、大会社0.44倍・中会社0.50倍・小会社0.60倍です。

この格差は、斟酌割合の違いに起因します。大会社0.7・中会社0.6・小会社0.5と区分されています。見直しにより、斟酌割合の縮小・統一が検討される可能性があります。


② 操作性・恣意性の排除──評価額を人為的に下げるスキームへの対応

有識者会議の資料では、評価額の操作可能性として3つの課題が示されています。

一つ目は、グループ法人税制の活用です。グループ法人税制の下では、100%支配グループ内で資産を移転しても法人税負担が発生しません。資産を親会社から子会社・孫会社へ移転すると、親会社の株式評価が減少します。子会社等が類似業種比準方式を採用すれば、さらに評価圧縮が可能になります。

二つ目は、種類株式(無議決権株式)の活用です。創業者の保有株式を無議決権株式に変換すると、配当還元方式が適用され、評価額が大幅に低下します。後継者に議決権を集約することもできます。あわせて、孫世代の一部にも配当還元方式が波及します。資料では、将来的に無議決権株式を普通株式へ転換することも否定できないと指摘されています。

三つ目は、超過収益力分の社外流出です。非上場会社では、所有と経営が一体のため、会社の超過収益を役員報酬として社外に流出させることができます。配当として支払う必要がありません。
この結果、会社の利益・配当・純資産(内部留保)がいずれも減少します。類似業種比準方式の3つの比準要素(配当・利益・純資産簿価)がすべて下がるため、株式評価額を大きく引き下げられます。

いずれも、現行制度の範囲内で行われている合法的な手法です。ただし、有識者会議はこれらを「評価の公平性を損なうスキーム」として問題視しています。


③ 第三者承継・M&Aへの対応──実際の売買価格との差を踏まえる

近年、中小企業におけるM&Aの実施件数は増加しています。2022年度の実施件数は、民間M&A支援機関で4,036件、事業承継・引継ぎ支援センターでは1,681件でした。

M&Aの実際の売買価格は、収益性・将来キャッシュフローを基準として算定されます。一方、相続税・贈与税の評価は財産評価基本通達に基づく算定であり、両者の差が大きくなっています。

有識者会議では、M&Aによる売買実績も踏まえた評価方法の検討が論点として示されています。これは、M&Aを想定した第三者承継においても、相続税評価額の見直しが影響しうることを意味します。


④ 今日的観点からの見直し──昭和39年設定の還元率を現在の金利水準に合わせる

配当還元方式の還元率は、昭和39年の通達制定時に10%と設定されました。その後、金利水準は大幅に低下しましたが、還元率は10%のまま維持されています。

還元率が高いままであるほど、配当還元方式による評価額は低く算定されます。現在の長期国債利回りは1〜2%前後であり、10%という還元率は現実の金利水準と大きく乖離しています。

見直しにより還元率が引き下げられた場合、配当還元方式が適用される少数株主の保有株式評価額は上昇します。その結果、分散した株式を集約する際のコストが増加します。


有識者会議はあくまでも検討の開始であり、現時点で改正内容は確定していません。類似業種比準方式・純資産価額方式・配当還元方式という3方式の枠組みそのものが廃止される方向性は、今回の資料からは読み取れません。

変わりうるのは、各方式の計算パラメータ(斟酌割合・還元率・比準要素の扱い)や、特定スキームへの規制的な対応です。

今回の有識者会議は、制度改正が「検討中」ではなく「正式なプロセスとして動いている」段階に入ったことを示しています。

確認すべき順序は次のとおりです。

第一に、現時点の自社株評価額の把握です。 現行の評価方式で算定した場合、自社株1株あたりの評価額はいくらか。移転対象株式数に対して、贈与税・相続税の概算はいくらになるか。この試算がなければ、制度改正の影響を判断できません。

第二に、現行制度が適用される期間の確認です。 有識者会議が開始された以上、通達改正のスケジュールは今後具体化します。その前に移転設計を完了するかどうかは、現時点の評価額と移転コストの試算があってはじめて判断できます。

第三に、設計の優先順位の整理です。 自社株の移転方法(暦年贈与・特例税制・組織再編等)によって、制度改正の影響を受ける度合いは異なります。どの方法が自社の状況に適合するかは、財務・税務・後継者体制の3点を一体で確認する必要があります。

  • 2026年4月20日、国税庁が自社株評価制度の見直しを検討する有識者会議を正式に開始した。
  • 見直しの4方向性は、①公平性確保(規模格差是正)②操作性・恣意性の排除③M&A対応④配当還元率の見直し。
  • 改正内容・時期は未確定。ただし「個別対応でなく制度として対処する」という国税庁の方針が示された。
  • 現行制度の恩恵が大きい大会社区分ほど、見直しによる評価額への影響が大きくなる可能性がある。
  • 移転設計の前提として、現時点の評価額・移転コストの試算が必要。