
このコラムでは、会計検査院が公表した実測データと、2026年4月20日に国税庁が開催した有識者会議の内容をもとに、自社株の評価額が純資産の「3割」水準にある構造的な背景と、制度改正リスクの論点を整理します。
自社株の評価額は純資産の「3割」──この差が縮まると、承継コストはどう変わるか
「今の評価方法が、いつまで続くかわからない」
こう言うと、多くのオーナー社長は少し表情が変わります。
2026年4月20日、国税庁は「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第1回を開催しました。つまり、現行の自社株評価制度を抜本的に見直す検討プロセスが、正式に始まりました。
そもそも、この動きの背景には会計検査院の指摘があります。令和5年度の決算検査報告において、会計検査院は「現行制度には公平性上の問題がある」と公式に示しました。
【参考】「令和5年度決算検査報告」会計検査院
このコラムでは、会計検査院の実測データと有識者会議が示した見直しの方向性を整理します。
会計検査院が確認した数値
まず、会計検査院の調査の概要を確認します。令和2・3年分の相続税および贈与税の申告のうち、取引相場のない株式が含まれる申告を対象としました。評価会社は延べ1,785社です。評価方式の選択状況・評価額の水準・各方式間の差を実測しています。
確認された主な数値は以下のとおりです。
| 指標 | 中央値 |
|---|---|
| 類似業種比準価額(1株あたり) | 11,622円 |
| 純資産価額(1株あたり) | 42,648円 |
| 比率 | 27.2%(純資産価額比) |
評価会社の規模区分別にみると、申告評価額の純資産価額に対する割合の中央値は次のとおりです。
| 規模区分 | 申告評価額÷純資産価額(中央値) |
|---|---|
| 大会社 | 0.32倍 |
| 中会社 | 0.50倍 |
| 小会社 | 0.61倍 |
規模が大きい区分ほど、現行制度による評価額の低下幅が大きい状況です。
さらに、国税庁が今回の有識者会議に提出した直近データ(令和4・5年分)では、この割合の中央値は約26.1%まで低下しています。つまり、乖離は縮まっていません。
なぜ乖離が生じているのか
乖離の主な要因として、会計検査院は2点を指摘しています。
① 類似業種比準価額が下がる方向での通達改正が繰り返された
昭和41年から平成29年にかけて、類似業種比準価額の計算式は複数回改正されました。その内容は、いずれも評価額を引き下げる方向のものです。たとえば、斟酌割合の引き下げや、選択できる株価・利益金額の範囲拡大(最も低い値を選択可能)が行われています。
② 計算式が現在の実態を正確に反映していない可能性
類似業種比準価額の計算には、3要素(配当・利益・純資産簿価)が使われます。しかし、調査対象会社の約80%では、配当の比準割合がゼロでした。つまり、同族会社が無配当を維持することで評価額が下がる構造が、公式データとして確認されています。
国税庁が有識者会議を設置した背景
会計検査院の所見を受け、国税庁は制度改正の検討を本格化させました。そして、2026年4月20日の第1回有識者会議では、見直しの方向性として4つの論点が提示されました。
① 評価の公平性確保(規模間格差の解消)
規模が大きい区分ほど申告評価額が純資産価額から離れる現状を是正する。
② 操作性・恣意性の排除
会社規模の区分変更や資産構成の操作によって評価額を意図的に引き下げる行為への対応。
③ 第三者承継・M&Aへの対応
M&Aでの実際の売買価格と相続税評価額の差を踏まえた評価方法の検討。
④ 今日的観点からの見直し
配当還元方式の還元率(昭和39年設定の10%)が現在の金利水準と合っていない点の是正。
また、国税庁はこれらの問題について「個別対応(財産評価基本通達6項の適用)ではなく、制度として対処することが必要」と位置づけています。
現行制度の恩恵が大きい区分ほど、見直しの影響も大きい
規模の大きな会社ほど、類似業種比準価額を適用する割合(定数「L」)が高くなります。そのため、現行制度による評価低下の恩恵が大きくなります。一方で、見直しによる影響も同様に大きくなる構造です。
たとえば、斟酌割合が引き上げられた場合、大会社の評価額は他の区分より大きく上昇する可能性があります。また、配当還元方式の還元率が引き下げられた場合は、少数株主持分の評価額が上昇します。その結果、分散株式の整理コストが増加します。
「いつ改正されるか」より重要な問い
有識者会議は2026年4月に始まったばかりです。そのため、具体的な改正内容・時期は未確定です。ただし、国税庁が正式な検討プロセスを開始した事実は重要です。つまり、制度改正は「いつかあるかもしれない話」から「具体的なスケジュールで進んでいる話」に変わりました。
重要なのは「いつ改正されるか」ではありません。「改正前に移転を完了するかどうかの設計が必要かどうか」という問いです。
現時点での株価水準・移転にかかる税負担の試算・制度適用可能性の確認は、改正の有無にかかわらず承継設計の前提作業として機能します。
まとめ
- 会計検査院の実測(令和2・3年分)で、類似業種比準価額は純資産価額の27.2%水準と確認された。
- 国税庁の直近データ(令和4・5年分)では約26.1%まで低下しており、乖離は継続している。
- 規模が大きい区分ほど現行制度による評価低下幅が大きい(令和2・3年分:大会社0.32倍)。
- 2026年4月20日、国税庁は有識者会議を開催し、制度改正の検討プロセスを正式に開始した。
- 見直しの4方向性(公平性・操作性排除・M&A対応・今日的見直し)が示されており、現行制度を前提とした設計の前提が変わる可能性がある。
