事業承継を阻む「自社株評価」の壁

このコラムでは、2026年6月4日の有識者会議(第3回)をもとに、自社株評価の見直しで何が議論されているか、今確認すべき論点を整理します。

目次

2026年6月4日、国税庁の有識者会議(第3回)で、日本商工会議所(以下「日商」)・日本税理士会連合会(以下「日税連」)・昭和女子大学特命教授 櫻井久勝氏(以下「学識委員」)が意見を表明しました。

3者の主張を整理すると、評価額が「上がる」とも「下がる」とも現時点では確定していません。

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現在、中小企業側・税理士側・会計学者の主張が出そろった段階です。

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中小企業の円滑な事業承継の実現を最重視し、現行制度の維持・改善を求めています。

  • 事業承継の視点:中小企業は地域経済を支える「公器」です。そのため、継続企業(ゴーイングコンサーン)が前提となります。しかし、現行の純資産価額方式は解散価値を基礎としています。そのため、事業継続を前提とする企業評価としては不合理との指摘があります。
  • 現行方式の尊重:税務執行の観点では、類似業種比準方式の客観性や計算の容易さは重要です。また、将来収益や資本コストを評価に取り入れることには慎重な立場です。
  • 評価と税制の一体的議論:株式評価だけを見直しても問題は解決しません。事業承継税制の特例措置の拡充や恒久化を含め、納税負担と一体で議論すべきとの考えです。
  • 純資産価額の引き下げ:純資産価額は実態より高く評価される場合があります。例えば、在庫処分時の換価コストや退職給付債務などが十分に反映されていません。そのため、これらを考慮したうえで、純資産価額を引き下げる方向での見直しを求めています。

実務的な負担軽減と、評価の歪みの解消を求めています。

  • 評価の乖離と逆転現象:会社規模によって株価評価が逆転する場合があります。また、純資産価額と類似業種比準価額の間に大きな差が生じることもあります。その結果、評価差を利用した節税スキームを誘発している現状を問題視しています。
  • 事務負担の軽減:純資産価額の算定には多くの資料が必要です。そのため、中小企業にとっては大きな事務負担となっていると指摘しています。
  • 新たな評価方式の検討:継続企業を前提とした収益還元的な評価方式への移行を検討すべきとしています。例えば、法人税の課税所得を基礎とする方法が候補として挙げられています。
  • 実態の反映:簿価純資産価額の採用や、確実な退職給付債務等の控除を認めるなど、会社実態をより適正に反映させる仕組みを求めています。

会計学の知見から、インカム・アプローチによる企業価値評価の妥当性を説いています。

  • インカム・アプローチの重要性:貸借対照表に現れない無形資産(研究開発や従業員の意欲など)が企業価値を生んでいます。そのため、収益を基にした評価が不可欠であるとしています。
  • 残余利益モデル(RIM)の推奨:配当割引モデル(DDM)やDCF法と比較し、残余利益モデルが最も優れていると指摘しています。
    • 配当や設備投資といった経営者の裁量に左右されにくい。
    • 利益のボラティリティが小さく、将来予測が比較的容易である。
    • 「ターミナル価値(数年先以降の価値)」への依存度が明らかに小さい。
  • 適用上の検討:非上場会社への適用には課題があると指摘しています。特に資本コストの算定に使う「ベータ値」の把握が困難です。そこで、公平性の観点から全社一律で「ベータ=1.0」とするなどの実務的な案を提示しています。

現在進められている「取引相場のない株式」の評価制度見直しにおいて、今後の評価額がどのように動くかは、経営者にとって最大の関心事です。

3者の主張からは、相反する圧力が並存していることがわかります。引き上げ圧力としては、会計検査院・国税庁が求める乖離縮小とスキーム対応があります。一方、引き下げ圧力として、日商・日税連が求める純資産価額の評価減があります。さらに、収益還元への移行という第三の論点も提起されています。これは収益力次第で評価額が上下する、別の構図です。

したがって、評価額の方向はどちらとも確定していないため、「下がる」を前提に対策を組んでしまうと、制度が決まった後に計画の見直しが生じるリスクがあります。

まず時間軸を確認してください。

  • 特例承継計画の提出期限:2027年9月30日
  • 株式移転の実行期限:2027年12月31日
  • 通達改正の見込み:早くて2028年(未確定)

したがって、特例措置を使うなら、判断と実行は現行の通達のまま行うことになります。制度改正の決着を待つ選択は、2027年の期限との関係で取りにくい局面です。

確認の順序は次のとおりです。

確認の順序:

  1. 現時点の自社株評価額(純資産価額方式・類似業種比準方式の両方)
  2. 特例措置を使うか否かの判断材料の整理
  3. 複数シナリオで評価額がどう動くかの幅の把握

現在、非上場株式の評価を巡る議論は不透明な状況にあります。なぜなら、評価方法の見直し、事業承継税制、税務上の公平性が並行して議論されているためです。また、日本商工会議所は、評価額が想定以上に上昇する「予測不能ゾーン」の問題を指摘しています。その結果、経営者が事業承継をためらったり、成長投資を控えたりする可能性があります。一方で、「制度改正で評価は下がるはずだ」と考えるのは危険です。現時点では改正内容も時期も決まっておらず、評価方法そのものが見直される可能性もあるためです。そのため、承継対策は複数の前提で検討することが重要です。

純資産価額だけでなく収益性も踏まえて試算し、制度変更があっても判断を見直せる準備を進めるべきでしょう。

後継者、株式、財務、M&Aなどを含めて現状を確認し、何から着手すべきかを明確にします。

相談内容がまとまっていなくても構いません。

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この記事を書いた人

種山公認会計士・税理士事務所/代表
TMC 株式会社/代表取締役
公認会計士・税理士・中小企業診断士

大学卒業後、大手監査法人で上場企業の法定監査や上場準備支援等に従事した後、証券会社にて中小企業オーナー向けに自社株対策や資本政策のソリューション提案業務に従事。その後、税理士法人での税務申告、中小企業向けコンサル会社での経営・財務支援を経て独立。
現在は、東京都日本橋を拠点に、中小企業の事業承継対策と財務顧問として、
・自社株評価・株価対策、贈与・相続・M&Aを含む事業承継スキームの設計
・月次の数字を使った経営モニタリング、資金繰り改善、銀行対応のサポート
・後継者・幹部向けの「数字の見方」と会議運営の支援
などを通じて、「会社を次の世代につなぐ」ための実務支援を行っています。

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