このコラムでは、「ファミリーガバナンス・ガイダンス」について解説します。
はじめに
日本の企業の9割以上は、ファミリービジネス(同族経営企業)です。これらの企業は、日本経済の重要な担い手です。
ファミリービジネスには、強みがあります。長期的な視点と、迅速な意思決定です。一方で、課題もあります。世代交代が進むと、「家族」「所有(株式)」「経営」の3つの要素の関係が複雑になります。意思決定の停滞や、対立を招くこともあります。
経済産業省は、2026年6月5日、一つの指針を公表しました。「ファミリーガバナンス・ガイダンス」です。同族企業の持続的な成長を後押しする内容です。本コラムでは、その要点を整理します。
【参考】経済産業省「ファミリーガバナンス・ガイダンス」の公表について」
なぜ「今」、ファミリーガバナンスが必要なのか?
「ガバナンス」とは、会社で「誰が・どのように物事を決めるか」という仕組みのことです。
上場企業では、多くの立場に配慮します。株主、従業員、取引先などです。その上で、透明で公正な意思決定が求められます。
一方、ファミリービジネスでは、これに「家族」という要素が加わります。つまり、家族の中で会社のことをどう決めるか、というルールや仕組みが必要です。これを「ファミリーガバナンス」と呼びます。
創業期のファミリービジネスでは、「家族・所有・経営」が一体となっています。しかし、代を重ねるにつれ、経営に関与しない親族株主が増えます。その結果、この3つの輪(スリーサークルモデル)が分離し、利害関係が複雑化します。
価値観を明文化している企業の割合は、世界平均で64%、日本企業はわずか24%です。この「暗黙の了解」への依存が、有事のガバナンス不全を招きます。

出展:経済産業省「ファミリーガバナンス・ガイダンス」
事業承継は「最大の新事業」である
ガイダンスによると、事業承継が行われると経営者は平均で約17歳若返ります(70代から50代へ)。
若い経営者ほど、販路開拓や新製品開発といった「新たな取組」に積極的であるというデータがあります。
さらに、事業承継から5年が経過すると、売上高成長率が同業種平均を大きく上回る傾向が顕著になります。
適切なガバナンスの下で行われる事業承継は、単なるバトンタッチではありません。企業の第二創業期とも言える成長の契機なのです。
ガイダンスが提唱する「5つの柱」
ファミリーガバナンスを構築する上で、ガイダンスは以下の5つの項目を推奨しています。
- 理念・価値観の明文化(羅針盤)
創業の想いや過去の失敗(月桂冠の「注意帳」など)を共有し、全員が同じ方向を向くための拠り所を作ります。 - 意思決定の仕組み(ルールと場)
感情的な対立を避けるため、「ファミリー会議」のような公式な場を設け、独自の「ファミリー憲章」でルールを定めます。 - 関与方針の明確化(公私の整理)
親族の入社条件や役員登用基準を客観的に定めることで、従業員のモチベーションを維持し、透明性を確保します。 - 所有と経営の承継計画
株式を誰が・どのように持つのか、早期に方針を定め、内外に示すことで社会的信頼を高めます。 - ステークホルダーへの情報発信
同族経営であることの強みを積極的に伝え、地域や取引先との信頼関係を深めます。
実行力を担保する「3つの法的スキーム」
話し合いだけでなく、法的な強制力を持ってルールを守る仕組みも重要です。ガイダンスは、3つの法的手段を挙げています。
- 種類株式
議決権のない株式を活用し、「経営権」を後継者に集中させつつ、「財産権」を他の家族に分けることができます。 - 株主間契約
株式の売却ルールや、死後の取り扱いを事前に合意し、株式の散逸を防ぎます。 - 信託
株式を信託に預けることで、世代を超えた承継や議決権行使のルールを確実に担保します。
まず何から始めるべきか
「まだ早い」と先延ばしにするほど、選択肢は少なくなります。
特に、期限のある制度があります。中小企業向けの「事業承継税制(特例措置)」です。計画提出の期限は2027年9月30日です。なお、この特例は中小企業が対象です。中堅企業には適用されません。
まずは、現状把握から始めてください。自社株(株価)の評価と、税負担の確認です。数字に基づく現状把握が出発点です。その上で、具体的な承継スキームの検討が可能になります。

まとめ
ファミリーガバナンスの構築には、2つの意味があります。
一つは「守り」です。不祥事や対立を防ぎます。もう一つは「攻め」です。社会的信頼を得て、次の成長につなげます。
ガイダンスは、専門家の役割にも触れています。税理士・公認会計士・弁護士などです。第三者の立場で、経営者に助言する役割です。こうした専門家を活用しながら、自社に合った「家族と会社の形」を議論する。それが、持続可能な経営への第一歩です。
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