最終更新日:2022年7月11日
事業承継税制 の最大の不安 は、要件を満たせなかった場合に納税猶予が取り消され、利子税を加算した税額を一括で支払わなければならないことです。
今回は、事業承継税制の不安解消手段として、相続時精算課税制度の併用について解説します。
【この記事を読んで得られること】
- 事業承継税制はもともと暦年課税制度が前提の制度
- 暦年課税制度と相続時精算課税制度のシミュレーション結果は?
- 事業承継税制と相続時精算課税を併用するとなぜ不安解消になるのか?
事業承継税制と相続時精算課税併用シミュレーション
事例
事例は、下記ブログを使用します。
【参考】ブログ「事業承継税制で猶予される相続税額は?」


種山公認会計士事務所作成(無断転載・転用不可)
仮定
自社株式の移転(太郎⇒学)について、4つのパターンでシミュレーションします。なお、1株当たりの株式評価額は5,000円で変化なしと仮定します。また、太郎の相続は、自社株式贈与時から10年後と仮定します。
パターン
1~3までは太郎の生前に自社株式を移転するスキームです。4のみ相続時に移転しています。
- 暦年課税制度で贈与した場合。
- 贈与税(暦年課税)の納税猶予制度を活用して贈与。しかし、太郎の相続前に要件が満たせず納税猶予が取り消された場合
- 2.のケースで、相続時精算課税制度を併用していた場合
- 太郎の相続時に、自社株式すべてを学が相続した場合
1.暦年課税制度で贈与した場合

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太郎から学に自社株式175,000千円が贈与された場合、以下の贈与税がかかります。
(175,000,000-1,100,000)×55%-6,400,000=89,245千円
【参考】国税庁タックスアンサー「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
2.納税猶予制度を活用して贈与、太郎の相続前に猶予取り消し

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贈与時にかかる贈与税額は、89,245千円です(1.のケースと同様です)。贈与税の納税猶予制度(特例)を活用していますので、全額猶予されます(支払う必要はありません)。
通常は、太郎の相続発生時に、贈与税の猶予額は免除されます。その際、相続税を支払うのか、相続税の納税猶予制度に切り替えるのか、選択します。
ただ、このケースの場合、太郎の相続前に要件を満たせずに納税猶予が取り消されています。したがって、贈与税額と利子税額を合わせて納税することになります。つまり、89,245千円+利子税の納税が必要となります。
【参考】ブログ「これだけは知っておきたい「事業承継税制」」
3.2のケースで、相続時精算課税制度を併用していた場合

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贈与時に支払いが猶予された税額は、(175,000,000-25,000,000)×20%=30,000千円です。要件が満たせずに納税猶予が取り消された場合、贈与税額30,000千円と利子税を支払うことになります。
また、太郎の相続が発生した際の学の相続税負担額は、29,633千円(4.参照)です。したがって、366千円(=29,633-30,000)還付されます。
なお、相続時精算課税制度の要件については、以下のブログをご参照ください。特に、特例措置は一般措置と異なり、「推定相続人及び孫」の要件がないことにご注意ください。
【参考】ブログ「そもそも贈与税とは?」「特例事業承継税制の期限はいつまで?」
4.太郎の相続時に、自社株式すべてを学が相続した場合

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下記の事例にもあるように、学の相続税負担額は29,633千円です。今回の事例では要件を満たせませんので、一括で支払うことになります。
【参考】ブログ「事業承継税制で猶予される相続税額は?」
まとめ
1.~4.までを下表にまとめました。いつ自社株式を移転するか、どのようなスキームをとるか、で負担する税額は変わってきます。また将来の株価予測しだいでも変わります。事業承継税制の適用に躊躇される方が多いのは、あくまでも納税猶予であり、将来の不確定要素に左右されやすいからです。今回のシミュレーションで、相続時精算課税制度の併用が事業承継税制適用の不安解消になることがわかります。ただ、その他、特別受益や遺留分の問題なども同時に検討する必要がありますので、事前に専門家に相談するのが無難だと思います。

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