今回は、相続時の自社株式の分散防止の制度について解説します。
・株式譲渡制限が定款にあっても株式が移動してしまう場合とは?
・自社株式を分散防止する対策とは?
・相続時売渡請求権の相続クーデターリスクの回避策とは?
株式譲渡制限があるか否かは定款を確認する
譲渡制限株式(会社法第2条17号)
譲渡制限株式とは、
「株式会社がその発行する全部又は一部の株式の内容として、譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定めを設けている場合における当該株式」
のことです。
つまり、株式を譲渡する際は、取締役会や株主総会の承認が必要です。
自社株式の譲渡制限は、友好的でない者を株主として会社経営に関与させないためにほとんどの中小企業で設定されています。また、2006年5月施行の会社法から、定款で一部の種類株式についても譲渡制限できるようになりました。
ただ、「定款による株式譲渡制限が導入」されたのは昭和41年です。したがって、それ以前に設立された会社は、自社の定款を今一度確認する必要があります。
【参考】ブログ「会社支配に議決権はどの程度必要か?」
譲渡制限にも例外がある
定款に株式の譲渡制限があれば「株式は分散しない」と誤解されている方も多いです。
相続、合併といった一般承継については、株式に譲渡制限がついていても、会社の承認なくして承継人に移動してしまいます。その結果、老舗企業では、会社経営に関与しない親族にまで株式が分散しています。会社法では、株式分散防止のため「相続人等への売渡請求権」が規定されています。
相続人等への売渡請求権(会社法第174条)
定款に記載が必要
定款に「相続人等への売渡請求権」を付与すれば、会社は相続人等から強制的に自社株式を買い取ることができます。
これにより、一般承継でも経営に好ましくない者の強制的な排除が可能になりました。
ただ、この規定は「諸刃の剣」で注意すべき点も多いです。
特に、2006年5月の新会社法施行時に定款の見直しを行った会社は、あまり検討せずにこの規定を付与しているケースが多い印象です。
「相続人等への売渡請求権」の注意点
請求期限
相続等の一般承継があったことを知った日から1年以内に、株主総会の特別決議を経て請求する必要があります(会社法第175条、176条)。
売買価格
株式の売買価格は、原則として当事者間の協議によります。しかし、協議が整わない場合、裁判所に価格決定の申し立てができます。
ただし、売渡請求の日から20日以内に行わなければなりません。
なお、裁判所は、会社の資産状態その他一切の事情を考慮した価格決定をします。
したがって、協議が整わない場合、「1株当たり純資産」を基準とした高めの価格になる可能性が高いです。
財源規制
剰余金分配可能価額を超える買い取りはできません(会社法第461条1項5号)。
【参考】ブログ「自社株式で相続税を支払う方法」
相続クーデターの発生
定款に「相続人等への売渡請求権」を付与すると、少数株主による会社乗っ取りの危険が生じます。
オーナー経営者の相続が発生した際、
少数株主(議決権割合3%以上)が臨時株主総会を招集し、
相続人(経営者の奥様あるいは後継者)に対して株式の売渡請求をした場合、
相続人は特別利害関係人として議決権を行使できません。
少数株主のみで株主総会は決議されることになります。
その結果、相続人が相続する予定だった自社株式は強制的に会社に買い取られてしまいます。
最終的に、後継者には経営権が移転せず、売買代金が手元に残ることになります。
相続クーデターの防止
相続クーデターを防ぐには、何通りか方法が考えられます。
生前に新会社を設立して間接所有にしておく
生前に新会社を設立して、経営者所有株式をその会社に譲渡して間接保有にしておきます。
相続時に持っている株式は新会社の株式であり、相続クーデターは起こりません。
ただし、新会社による買い取り資金の確保、その借入金の返済や経営者が負担する税金等、シミュレーションを事前に行う必要があります。
後継者に生前贈与する
生前に現経営者が保有する株式のすべてを後継者に贈与するのも一つの方法です。
相続時に所有していなければ、そもそも売渡請求対象になりません。
生前贈与は事業承継税制の活用も併せて検討すべきです。ただし、現経営者の生前に後継者に株式を移転するのはハードルが高いのが現状です。
少数株主の相続の都度、定款に付与する
売渡請求に係る定款の定めを設定できる時期については、法律上制限がありません。
したがって、少数株主の相続時に「相続人等への売渡請求権」を定款に付与し、買い取り後に定款から外すことが可能です。
この結果、オーナー社長の相続時に定款に売渡請求権は付与されていないため、少数株主に売渡請求されることはありません。
まとめ
今回は、株式分散防止策「相続人等への売渡請求権」を中心に解説しました。
2006年5月の会社法施行時に、定款を見直した会社はたくさんありましたが、あまり検討せずに「相続人等への売渡請求権」を定款に付与しているケースが多い印象です。
事業承継対策にあたっては、今一度、自社の定款を見直す必要があります。