種山会計士

このコラムでは、令和8年度税制改正について、中小企業のオーナー社長・後継者が知っておきたい順番に解説します。

【注意】この記事は2025年12月19日に公表の「令和8年度与党税制改正大綱」および政府資料(税制改正の概要等)に基づく整理です。成立法令・政省令で細部が変わる可能性があります

令和8年度税制改正は、「経済あっての財政」を掲げる高市政権の下、物価高への対応や力強い経済成長を実現するための大規模な投資促進、そして課税の公平性を確保するための厳格な見直しが盛り込まれました。

【参考】自民党「令和8年度税制改正大綱

事業承継税制(法人版・個人版)|相続税・贈与税

【現行制度】
  • (法人版)特例事業承継税制:非上場株式等の相続税・贈与税について、一定要件のもとで納税猶予・免除が可能。
  • 特例承継計画の提出期限2026-03-31(令和8年3月31日)
  • 特例措置の適用(相続・贈与の期限)2027-12-31(令和9年12月31日)
【改正の内容】
  • (法人版)特例承継計画の提出期限2027-09-30(令和9年9月30日)へ延長
         相続・贈与の期限(2027-12-31(令和9年12月31日))自体は維持
  • (個人版)個人事業承継計画提出期限2028-09-30(令和10年9月30日)へ延長
         相続・贈与の期限(2028-12-31(令和10年12月31日))自体は維持
【改正の施行日】
  • 公布後(改正法成立後)。提出期限延長は期限条文のため、通常は改正法で確定します。
【注意点】
  • 期限延長は「先送りの安心」になりがちです。しかし、株価・納税資金・議決権・後継者体制は時間が経つほど難化しやすい領域です。
  • 計画提出=自動適用ではないため、早めに「要件を満たす運用(雇用・役員・資産管理など)」の設計が必要です。
  • 制度要件(取消事由・例外)の細目は個社差が大きいです。したがって、実行前に専門家に確認するのが無難です。

【参考】国税庁「事業承継税制特集

貸付用不動産の評価見直し(相続直前対策の否認リスク)|相続税

【現行制度】
  • 貸付用不動産(賃貸アパート等)は、市場価格と相続税評価額との乖離があります。その結果、相続税評価額は、購入価額より低い評価になりやすく、相続直前の対策に使われやすい傾向があります。
【改正の内容】
  • 相続開始前5年以内に、売買等により取得した貸付用不動産について、一定の貸付用不動産については、相続時における通常の取引価額(時価)に相当する金額により評価する。
  • 通常の取引価額(時価)に相当する金額については、課税上の弊害がない限り、被相続人等が取得等をした貸付用不動産に係る取得価額を基に、地価の変動等を考慮して計算した価額の80/100に相当する金額によって評価することができる。
【改正の施行日】
  • 2027-01-01(令和9年1月1日)以後の相続等に適用。
【注意点】
  • 「購入して賃貸に回す」こと自体が否定されるわけではなく、相続直前対策を念頭においた改正です。
  • したがって、相続の直前対策を検討している場合、購入時期・資金調達・収支計画・実態(賃貸の合理性)を含め、経済合理性等を説明できるかが重要になります。

インボイス負担軽減(控除率・2割特例の見直し)|消費税

【現行制度】

(A) 【買い手側】免税事業者からの仕入れの控除(仕入税額控除の経過措置)

  • 80%控除:2023-10-01(令和5年10月1日)〜2026-09-30(令和8年9月30日)
  • 50%控除:2026-10-01(令和8年10月1日)〜2029-09-30(令和11年9月30日)
  • 0%(控除不可):2029-10-01(令和11年10月1日)以後

(B) 【売り手側】2割特例(免税→課税転換の納税負担軽減)

  • 対象:主に基準期間の課税売上高1,000万円以下で、インボイス登録により課税事業者となった者など
  • 内容:納付税額を簡便に計算(いわゆる「2割」
  • 期限:2026-09-30(令和8年9月30日)までの課税期間等が中心
【改正の内容】

(A) 【買い手側】免税事業者からの仕入れ控除(経過措置)の延長+控除率の見直し

  • 70%控除:2026-10-01(令和8年10月1日)〜2028-09-30(令和10年9月30日)
  • 50%控除:2028-10-01(令和10年10月1日)〜2030-09-30(令和12年9月30日)
  • 30%控除:2030-10-01(令和12年10月1日)〜2031-09-30(令和13年9月30日)
  • 0%:2031-10-01(令和13年10月1日)以後(経過措置終了)

(B)【売り手側】 2割特例の見直し(3割へ)+2年延長(個人事業者中心)

  • 2026-10-01(令和8年10月1日)〜2028-09-30(令和10年9月30日):「2割」→「3割」へ見直し
  • 併せて、一定の場合の適用除外基準を課税売上高10億円超→1億円超へ引下げ(超過部分は適用除外)。例)法人設立後、売上高が急増、インボイス登録していないケース
【改正の施行日】
  • 2026-10-01(令和8年10月1日)から段階適用(控除率の切替・特例見直し)。
【注意点】
  • 免税事業者との取引が多い業種は要注意です。原価・粗利への影響が長期化します(2031(令和13)年9月まで段階残存)。
  • 2割特例(→3割)には売上規模等の前提があります。さらに1億円超の適用除外が入るため、取引規模によって影響が変わります。したがって、制度判定は専門家に確認が安全です。

賃上げ促進税制(中小向け継続/要件整理)|法人税

【現行制度】
  • 全企業を対象とした賃上げ支援措置がありますが、環境の変化に合わせ内容が整理されます。
【改正の内容】
  • 大企業向けは廃止されますが、中小企業向けは「防衛的賃上げ」に配慮し、令和8年度も現行制度が維持されます。
【改正の施行日】
  • 2026年度(令和8年度)開始事業年度から適用予定。
【注意点】
  • 会計検査院の指摘により教育訓練費の上乗せ要件は廃止されます。
  • 実務は複雑化しやすいため、適用検討時は専門家に確認が安全です。

中小企業経営強化税制(延長・新設)|法人税

【現行制度】
  • 認定を受けた経営力向上計画に基づく設備投資に対し、即時償却等の優遇措置があります。
【改正の内容】
  • 既存の投資促進税制について必要な延長措置が講じられます。
  • また、新設される「特定生産性向上設備等投資促進税制」では、中小企業が5億円以上の投資(ROI 15%以上)を行う場合、即時償却等の選択適用が可能です。
【改正の施行日】
  • 新制度は産業競争力強化法の改正法施行日から2029年(令和11年)3月末まで
【注意点】
  • 新設の即時償却制度と、既存の中小企業経営強化税制等は選択適用(併用不可)

少額減価償却資産の特例(30万→40万、延長)|法人税・所得税

【現行制度】
  • 中小企業者が取得価額30万円未満の資産を取得した場合、全額損金算入が可能です(年300万円まで)。
【改正の内容】
  • 対象金額を30万円未満→40万円未満へ引上げ。
  • 適用期限を3年延長(2029-03-31(令和11年3月31日)まで)。
【改正の施行日】
  • 2026年度(令和8年度)から3年間延長される予定。
【注意点】
  • 上限(年300万円)や対象要件は残るため、「40万円なら何でも落とせる」ではありません。
  • 常時使用する従業員数が400人を超える法人は対象外となります。

従業員向け食事補助の非課税枠(引上げ)|所得税

【現行制度】
  • 会社が従業員に食事を支給する場合、従業員が食事価額の半分以上を負担し、会社負担が月3,500円以下なら、原則として給与課税しない。
  • 深夜勤務に伴う夜食の現物支給に代えて支給する金銭の非課税額は1回300円以下。
【改正の内容】
  • 非課税枠(会社負担上限)を月7,500円へ引き上げ。
  • 深夜勤務に伴う夜食の現物支給に代えて支給する金銭の非課税額も1回650円以下に引き上げ。
【改正の施行日】
  • 2026年(令和8年)分の所得税から適用予定。
【注意点】
  • 食事補助は「福利厚生」として有効です。しかし、要件を外すと給与課税(源泉・社会保険にも波及し得る)点に注意が必要です。
  • 運用ルール(従業員負担の徴収方法等)を社内で明確化すると安全です。

社債の利子の課税(“実質同族会社由来”の総合課税化)|所得税

【現行制度】
  • 公社債等の利子は原則として源泉分離課税(20.315%)
【改正の内容】
  • 同族会社の役員等が、実質的にその同族会社から支払を受ける社債の利子(同族会社による保証がある場合など)については、総合課税の対象となります。
【改正の施行日】
  • 2026-04-01(令和8年4月1日)以後に支払を受ける利子、同日以後に償還を受ける差益等から適用。
【注意点】
  • 同族会社からの利益移転を利息の形で分散させる租税回避への対応が厳格化されます。
  • 形式上は第三者発行の社債でも、実態(保証・資金循環・リスク負担)で判定される方向です。
  • オーナー企業の資金調達・グループ内取引の設計に影響します。したがって、該当可能性がある場合は専門家に確認が安全です。

暗号資産(特定暗号資産)の申告分離課税|所得税

【現行制度】
  • 暗号資産の損益は、原則として雑所得(総合課税)。損失の繰越控除は原則不可
【改正の内容】
  • 新たに「特定暗号資産」を定義します。一定の暗号資産取引は、株式等と同様に、申告分離課税(20%:所得税15%+住民税5%)の対象になります。
  • また、損失の3年繰越控除も可能となります(他所得との損益通算は不可)。
【改正の施行日】
  • 金融商品取引法改正法の施行日の属する年の翌年1月1日から適用。
【注意点】
  • 申告分離課税の対象が「すべての暗号資産」になるとは限りません。定義・対象外の整理が鍵となります。
  • 投資家本人だけでなく、役員個人の資産運用が絡む会社は要注意です。

基礎控除・給与所得控除の引き上げ(「178万円の壁」への対応)|所得税

【現行制度】
  • 基礎控除等は定額(48万円等)で、インフレによる実質増税が問題視されていました。
【改正の内容】
  • 物価連動が導入され、基礎控除は62万円(所得2,350万円以下)、給与所得控除の最低額は69万円に引き上げられます。
  • さらに時限的措置を加え、負担開始水準を「178万円」まで引き上げます。
【改正の施行日】
  • 2026年分(令和8年分)の所得税から適用されます。
【注意点】
  • 178万円への引き上げ部分は、令和8年・9年の2年間の時限措置として講じられます。

【参考】国税庁タックスアンサー「No.1199 基礎控除」「No.1410 給与所得控除

極めて高い所得への負担適正化|所得税

【現行制度】
  • 所得税は累進税率(最高45%)で課税されますが、所得の種類・控除等により、実効負担の差が生じ得ます。
【改正の内容】
  • 基準所得金額が30億円超」の超高所得者について、一定の計算により求めた所得税額を上乗せする仕組みの見直し。
  • 具体的には、(30億円超部分に係る)税率相当を22.5%→30%へ引上げ。
【改正の施行日】
  • 2027年分(令和9年分)の所得税から適用。
【注意点】
  • 多くの中小企業オーナーに直撃する論点ではありません。しかし、資産規模が極めて大きい層では、株式譲渡・配当・役員報酬設計の影響が出得ます。したがって、M&Aで株式を売却する際は要注意です。

防衛特別所得税/復興特別所得税の見直し|所得税

【現行制度】
  • 復興特別所得税:所得税額に対し2.1%を上乗せ(2013年分(平成25年分)〜2037年分(令和19年分))。
【改正の内容】

(A) 防衛特別所得税(新設)

  • 所得税額に対し1%を上乗せ。

(B) 復興特別所得税(税率引下げ+期間延長)

  • 税率:2.1%→1.1%へ引下げ
  • 期間:2037年分(令和19年分)まで→2047年分(令和29年分)までへ延長
【改正の施行日】
  • 2027年(令和9年)1月から適用
【注意点】
  • 当面の付加税率は2.1%で維持されますが、負担がより長期にわたって続くことになります。

まとめ

令和8年度税制改正は、「期限管理をサボると損する(適用漏れ)/やり過ぎると否認される(直前対策つぶし)」の両方向で、オーナー社長に影響が出やすい改正が並びます。
特に実務上は次の3点を“先に手当て”するのが合理的です。

  1. 特例事業承継税制の特例承継計画の期限延長への対応
    事業承継は税金対策だけではありません。次世代への引継ぎについて早めの対応がポイントです。
  2. インボイスの負担軽減は“段階表”で社内共有
    控除率・2割特例の変更時期を間違えると、納税見込みがズレます
  3. “直前対策”系(相続直前の不動産など)は、やった瞬間にリスク化し得るので、実行前にシミュレーションが不可欠です。