公認会計士・税理士 種山 和男 のブログ

所在不明な株主はどうする?

最終更新日:2022年9月20日

所在がわからない株主がいると、円滑な事業承継や会社売却の妨げになります。
今回は「所在不明株主の株式の競売等の特例」を中心に解説します。

【この記事を読んで得られること】

  • 所在不明株主とは?
  • 会社法の特例(経営承継円滑化法)で5年が1年に短縮?
  • 会社法の特例を使える要件は?

所在不明株主とは?

株主名簿に記載はあるものの、会社から連絡が取れず、所在が不明な株主のことです。

なぜ所在が不明な株主が存在する?

相続が原因のケースが多いと考えられます。また、そもそも名義株で本人も忘れているまま相続が発生したケースもあります。

名義株とは?

1990年の商法改正前は、株式会社設立時に7人以上の発起人、かつ、発起人が1株以上を引き受ける、という規定がありました。そのため、他人の承諾を経て、他人名義の株式の引受・取得が多数存在します。

M&A支援機関が遭遇したケースは?

下記は、レコフ社が実施したM&A支援機関へのアンケート結果です。
なお、66%のM&A支援機関は所在不明株主の問題で苦労したことはありません。
しかし、29%は苦労したことがあり、M&Aを断念したケースも5%存在しています。
また、その中でも、名義株主の議決権割合10%未満が55%を占めています。
なお、議決権割合1/3超で特別決議を単独で阻止できます。アンケートでは、議決権割合の1/3以上が名義株主である会社も13%存在しました。

【参考】ブログ「会社支配に議決権はどの程度必要か?

会社法上の対応

株式会社は、以下の両方の要件を満たせば、所在不明株主の株式を競売又は売却(自社による買取りを含め、以下「買取り等」といいます。)する手続が可能です(会社法第197条、第198条)。

  • 所在不明株主に対して行う通知等が5年以上継続して到達しない
  • 当該所在不明株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しない

今までは、「5年」という長さが、手続利用を困難にしていました。そこで、事業承継ニーズが高く、一定の要件を満たした会社に対して、1年間に短縮する特例が2021年8月2日に施行されました。

なお、所在不明株主の場合、株式を買い取りたくても相手と連絡がつきません。法務局に代金を預けることになります(供託)

【参考】最高裁判所「所在不明株主の株式売却許可申立事件についてのQ&A

この制度は、「事業承継ニーズが高く」の要件が複雑なため、以下で解説します。

会社法特例が適用できる要件は?

対象となる会社は?

特例を活用するために満たすべき2つの要件とは?

会社法特例を活用するには、2つの要件を満たす必要があります。

  • 経営困難要件
  • 円滑承継困難要件

経営困難要件とは?

経営困難要件とは、「現代表者が年齢、健康状態その他の事情により、継続的かつ安定的に経営を行うことが困難であるため、会社の事業活動の継続に支障が生じている場合」のことです。

なお、中小企業経営承継円滑化法「会社法特例」申請マニュアル(以下、「申請マニュアル」)には、以下の事例が掲載されています。

  • 現代表者の「年齢」が満 60 歳を超えている場合
  • 現代表者の「健康状態」が日常業務に支障を生じさせている場合
「その他の事情」が認められる場合の事例
  • 現代表者以外の役員や幹部従業員の病気・事故、突然の失踪など
  • 外部環境の急激な変化により突然業績が悪化(例:新型コロナウィルス感染症の感染拡大(※1))

(※1)当面の間、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を理由とする場合、2020年1月以後の任意の3月間における売上高又は販売数量(売上高等)が前年同期の3月間における売上高等の80%以下に減少した(見込まれる)ケースその他経営の承継を伴う事業の再生や転業を要するケース等を想定。

ただし、申請マニュアルには「仮に以下の具体例に該当しない場合であっても、個別具体的な事情を総合的に考慮して認定が相当であると判断することがあります」との記載があります。したがって、各社の個別事情については、上記事例に照らし合わせて要件を満たさない場合であっても、念のため申請窓口に相談されたほうがよいと思います。

円滑承継困難要件

円滑承継困難要件とは、「一部株主の所在が不明であることにより、その経営を当該代表者以外の者(株式会社事業後継者)に円滑に承継させることが困難であること」です。

なお、申請マニュアルには、この要件を満たすための事例が掲載されています。

  1. 後継者が決定している場合(親族内承継だけでなく第三者も含む) 
    所在不明株主の保有株式の議決権割合
    (A)株式譲渡の手法(※1):1/10超、かつ、「1-要求される割合」超
    (B)事業譲渡、会社分割などの株主総会特別決議に基づく手法:1/3超

  2. 後継者が未定の場合(第三者承継(M&A)を想定
    所在不明株主の保有株式の議決権割合
    (C)原則:1/3超
    (D)例外:1/10超、かつ、特例適用分が経営株主等(※2)と加算して9/10以上

(※1)議決権割合の過半数を取得することで支配権を確保するケースが前提
(※2)代表者又は代表者であった者並びにその親族(配偶者、血族6親等、姻族3親等)

【参考】ブログ「会社支配に議決権はどの程度必要か?

以下では、A~Dを解説します。

A 株式譲渡の手法~総株主等議決権数の1/10等を目安とする基準~

所在不明株主の存在により、後継者が支配権を得るために必要とする議決権数等を得られないため、所在不明株主の株式の買取り等が必要であること。
ただし、所在不明株主の議決権割合が10%超であり、特別支配株主(議決権の 90%以上を保有する株主)の株式等売渡請求によるスクイーズ・アウト(支配株主が他の少数株主の株式を、その承諾なく強制的に金銭を対価として取得して少数株主を排除すること)ができない場合に限定されます。

【事例】a=1,000、b=150、c=150、d=900、は基準を満たします。なお、a=1,000、b=50、c=50、d=900、は基準ⅰ、ⅳを満たしません。

B 事業譲渡、会社分割、新株発行などの株主総会特別決議に基づく手法~総株主等議決権数の1/3等を目安とする基準~

事業譲渡、会社分割、新株発行などは、原則として株主総会特別決議が必要です。したがって、所在不明株主の議決割合が1/3 を超えている場合、株主総会特別決議ができません。これらの手法により事業承継を行う場合、後継者が円滑に承継するには、総株主等議決権数の2/3を確保する必要があります。

【事例】a=1,000、b=400、c=400、は基準を満たします。なお、a=1,000、b=300、c=300、は基準ⅰを満たしません。

なお、株式譲渡、新株発行を併用する場合、原則としてA、Bの両方の基準を満たす必要があります。

C 原則~総株主等議決権数の1/3等を目安とする基準~

株式集約のためスクイーズ・アウトを行う際、株主総会特別決議に基づく手法を選択する場合に、所在不明株主の株式の議決権数に係る議決割合が 1/3 を超えているため、株主総会特別決議を安全に行うことができる総株主等議決権数の 2/3を確保できないこと。

【事例】a=1,000、b=400、c=400、は基準を満たします。なお、a=1,000、b=300、c=300、は基準ⅰを満たしません。

D 例外~総株主等議決権数の1/10等を目安とする基準~

株式集約のためスクイーズ・アウトを行う際、特別支配株主(議決権の 90%以上を保有する株主)による株式等の売渡請求を選択する場合に、所在不明株主の株式の議決権数の割合が10%を超えるため、議決権の 90%以上の議決権数を確保できないこと。ただし、経営株主等のみで総株主等議決権数の過半数を有しており、支配権を確保できている場合に限ります。
また、本基準において円滑承継困難要件を満たし得るのは、必要な株式集約に支障が生じることで将来の事業承継を円滑に行えない相当程度の蓋然性が認められるときに限られます。

【事例】a=1,000、b=150、c=150、z=800、は基準を満たします。なお、a=1,000、b=200、c=200、z=680、は基準ⅳを満たしません。

自己株式の議決権は?

会社法第308条第2項により、自己株式に議決権はありません。したがって、会社法特例の申請時点で既に保有している自己株式は議決権がありません。しかし、会社法特例の認定の際は、会社が買い取る予定の所在不明株主の株式について、議決権を有するものとします。

会社法特例の申請窓口は?

会社本店所在地の都道府県知事の認定が必要です。したがって、申請窓口は都道府県庁となります。

経営革新等支援機関に所見などは必要?

経営革新等支援機関の証明、所見などは不要です。ただし、上記Dについては、円滑な承継が困難であることを証明するために、支援機関に複数回相談する必要があります。なお、支援機関とは、商工会議所・商工会、士業、金融機関などです。民間機関、公的機関を問いませんが、制度は事業承継・引継ぎ支援センターを想定していると思います。ただ個人的には、内容的に弁護士に限定すべきと思いますが、、、。

まとめ

さて、いかがでしたか。今回は、所在不明株主に関する会社法の特例について解説しました。この要件を満たせなくても、別の手法で株式集約することが可能な場合があります。例えば、特別支配株主の株式等売渡請求、株式併合などです。なお、所在不明株主は名義株兼ねているケースも多いです。したがって、昔のことを知っている現経営者が元気なうちに対応して、課題を後継者に引き継がないようにすることが大切です。

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