最終更新日:2023年2月15日
過去の赤字は、要件を満たせば当期の黒字と相殺することができます。その結果、課税所得が減少し、税金が減ります。今回は、赤字(繰越欠損金)を使った節税について解説します。
【この記事を読んで得られること】
- 過去の赤字は節税になるのか?
- 赤字(欠損金)は何年繰り越せるのか?
- 赤字(欠損金)を繰り越せる要件とは?
赤字を繰り越して節税する
税務上、赤字のことを「欠損金」、過去からの累計額を「繰越欠損金」といいます。
コロナ禍で業績が悪化して赤字になっても、将来的に黒字と相殺して節税ができます。ただし、将来の黒字と相殺して節税するには、いくつか要件があります。法人を中心にみていきます。※なお、このブログではわかりやすさを優先して、「課税所得」よりも「黒字・赤字」といった表現を多用します。貴社の過去の赤字が黒字と相殺できるか否かは顧問税理士等に必ずご確認ください。
繰越欠損金の要件とは?
累積赤字が当期黒字と相殺できる要件は、以下のいずれも満たす必要があります。
- 欠損金額が生じた事業年度において青色申告書である確定申告書を提出
- 帳簿書類等を10年間保存(ただし、2018年4月1日前に開始した事業年度は9年間)
- その後の各事業年度について連続して確定申告書を提出している
なお、2.帳簿書類等の保存期間ですが、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から10年間です。3.については、その後の確定申告書が白色申告でも、黒字と赤字の相殺は可能です。
【参考】国税庁タックスアンサー「No.5930 帳簿書類等の保存期間」
赤字を繰り越せる年数は?
法人と個人では、繰り越せる年数に違いがあります。
- 法人:10年(ただし、2018年4月1日前に開始した事業年度で生じたものは9年)
- 個人:3年
法人成りした場合、個人事業の赤字はどうなる?
個人の赤字は法人に引き継がれません。ただし、個人事業主の純損失の繰越控除の要件は、①純損失が生じた年分において青色申告をしている、②その後連続して確定申告をする、です。したがって、純損失が生じた年に青色申告の個人が法人成りをした場合、翌年以後に白色申告(給与所得)であっても、純損失の繰越控除はできます。
法人の事例
例えば、下記の事例をみていきます。
- 2011年4月1日設立登記の株式会社A社(決算日は3月末)
- A社は中小法人に該当し、他者と特定支配関係にない
- B社長が100%株主
- 毎期赤字だが、社長が会社に資金を貸し付けている
- 2023年3月期に黒字10,000千円
- 2023年3月期で使用可能な過去の赤字は32,000千円

種山公認会計士事務所作成(無断転載・転用不可)
黒字と過去の赤字を相殺する場合、古い年度の赤字から相殺していきます。2012年3月期、2013年3月期の赤字は、いずれも期限切れで黒字と相殺できません。2014年3月期の赤字から消し込んで、この結果、課税所得はゼロとなり、税金は法人住民税均等割のみとなります(最低7万円)。また、翌期に繰り越される欠損金は22,000千円となります。もし繰越欠損金がなければ、約3,000千円(=10,000千円×法定実効税率30%と仮定)の納税義務がありました。
赤字を黒字と相殺できない法人がある
過去の赤字は、黒字決算になった際の節税になります。したがって、ぜひ要件は満たしておきたいところです。ただし、以下の法人については、繰越欠損金の使用制限があります。
「中小法人等以外の法人」は制限がある
「中小法人等(※1)以外の法人」では、赤字として控除できる金額は、その事業年度の繰越控除前の所得金額に対して、一定割合をかけて求めます。2018年4月1日以降に開始する事業年度では50%です。したがって、上記の事例では、5,000千円(=10,000千円×50%)しか繰越欠損金を使えません。

種山公認会計士事務所作成(無断転載・転用不可)
(※1)中小法人等とは、普通法人のうち、資本金の額等が1億円以下であるもの(100パーセント子法人等(※2)を除きます。)、または資本もしくは出資を有しないもの、公益法人等、協同組合等、人格のない社団等のこと。
(※2)100パーセント子法人等とは、資本金の額が5億円以上の法人(以下、「大法人」)による完全支配関係(一の者が法人の発行済株式等の全部を直接または間接に保有する関係をいいます。)がある普通法人、完全支配関係がある複数の大法人に発行済株式等の全部を保有されている普通法人のこと。

出典:国税庁 別表七関係
M&Aによって買収された法人
繰越欠損金が多額にある会社を買収して、その会社で新規事業を始めたら節税になるのではないか、と考える方もいると思います。しかし、2006年度税制改正により、以下の規定に該当する法人は、繰越欠損金は使えません
- 他の者による特定支配関係(※1)を有することとなった。
- その特定支配関係を有することとなった日(以下「特定支配日」)の属する事業年度開始日に欠損金額等を有する法人(欠損等法人)。(※2)
- 特定支配日以後5年以内に、旧事業(特定支配日の直前において営む事業)のすべてを廃止するとともに、その旧事業の事業規模のおおむね5倍を超える資金の借入れ等を行うことなどの一定の事由に該当する。
※1 特定支配関係とは、他の者がその法人の発行済株式または出資の総数または総額の50パーセントを超える数または金額の株式または出資を直接または間接に保有する関係その他一定の関係のこと。
※2 2006年4月1日以後に特定支配関係を有することとなった場合の欠損金額について適用。
【参考】国税庁タックスアンサー「No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」
税効果会計~繰延税金資産~
繰越欠損金は、将来が黒字であれば、税金を減額します。その意味では資産でもあります。その資産性を表すために上場企業では「税効果会計」を適用していますが、中小企業ではほとんど使われていません。また別の機会にブログに書きたいと思います。
まとめ
さて、いかがでしたか。赤字は出さないほうが良いですが、要件を満たしておけば、将来の黒字と相殺できます。そのためには、個人、法人を問わず、税務署に青色申告の申請はしておくべきです。また、帳簿書類等は10年間保存しておきましょう。また、中小企業者等であれば、赤字を前年の黒字と相殺して法人税を還付することも可能です。前年度が黒字で、当年度が赤字の場合、繰り戻すか繰り越すかは、必ず顧問税理士にご確認ください。
【参考】国税庁タックスアンサー「No.5763 欠損金の繰戻しによる還付」
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