種山会計士

経営デザインシートとは、将来のビジネスをデザイン(設計)するためのツールやフレームワークのことです。今回は、以下について解説します。
・経営デザインシートとは?
・価値創造メカニズムとは?
・経営デザインシート作成のポイントは?

経営デザインシートとは

企業が成長するためには、顧客が求める価値を提供する仕組みを作る必要があります。これを「価値創造メカニズム」といいます。この仕組みは、経営資源を組み合わせることで構築されます。
そして、企業は環境変化に対応し、持続的に成長するために、
(A)自社の存在意義を意識し、
(B)これまでの価値創造メカニズムを把握し、
(C)新しい価値創造メカニズムを構想することが必要です。
(D)最後に、「これまで」からこれから」への移行戦略を策定し、実行することで、環境変化に強く、持続的な成長を実現することができます。

経営デザインシートは、上記(A)~(D)を以下のシートにまとめたものです。

出典「経営をデザインする」内閣府

経営デザインシートを作成するメリット

このシートは、企業経営における経営陣、社員、金融機関等における対話ツールです。。

  • 経営陣と社員が一緒に経営デザインシートを作ることで、経営上の課題に気付きや整理ができます。また、新しい事業のアイデアも生まれやすくなります。
  • 経営陣が「これまで」の経験と「これから」の展望を明記することで、社内外の共感を引き出し、それらの人たちとの協力関係も強化されます。
  • 事業承継時において、現在の経営者が「これまで」の部分を書き後継者候補が「これから」の部分を記述することで、変えてよい点、変えてはいけない点について検討することができます。

経営デザインシートの作成手順とポイント

顧客が求める価値を創出・提供するしくみ(価値創造メカニズム)に着目し、上記の(A)→(D)の順番で作成します。「これまで」と「これから」の「価値を生み出すしくみ」を比較しながら、そのギャップを埋めるために「何をするべきか」を考えていきます。つまり、これまでの延長線で考えるのではなく、未来からバックキャストして考えます。
以下(A)順番にポイントを記載します。なお、くれぐれもシートを埋めることが目的にならないように注意が必要です。

(A)企業理念/事業コンセプト

自社の目的・特徴・事業概要

  • 自社の独自性や特徴を振り返り、社会や市場に伝えたいイメージを再検討します。
  • 競合他社と比べて、自社だけが持つ独自のこだわりや想いをリストアップすることで、他社と差別化された自社の魅力を明確に伝えることができます。

経営方針

  • 「これからの価値を生み出す仕組み」を実現可能な形で自社の目的に沿って構築するために、経営方針を再確認します。
  • これにより、会社の目標に向かって効果的に取り組むことができ、将来の価値創造につながります。

(B)これまでの価値創造メカニズム

資源

まず、自社が持っている経営資源(人材・物品・資金・知的資産)を把握することが重要です。

  • どのような人材がおり、それぞれのスキルや経験は何か。
  • 使用している物品や設備、技術は何か。
  • 資金調達や投資の状況はどうか。
  • 知的財産(特許、商標、著作権など)はどのようなものを持っているか。

事業に不可欠な経営資源は、自社の目標や事業内容に応じて異なりますが、それらを明確に理解することで、効率的な経営が可能になります。また、競合他社との差別化を図るために、自社独自の経営資源や知的資産を明確に把握しましょう。これにより、自社の強みを活かした戦略を立てることができ、他社との競争優位を築くことが可能になります。

ビジネスモデル

ビジネスモデルとは、誰に(Who)、何を(What)、どうやって(How)、付加価値を提供し、収益を得るのかが盛り込まれたビジネスの仕組みのことです。これまでのビジネスモデルを捉えなおす必要があります。

  • 資源をどのように価値へ変換してきたか。
  • どのように工夫し事業を成長させてきたか。
  • 事業における勝ちパターンはどんなものか。

価値

これまで自社が提供してきた「付加価値」を捉えなおす必要があります。

  • どんな顧客が自社製品・サービスを必要としているか。
  • 自社製品・サービスを通じて、顧客は、どんな困りごとを解決し、実現したいことを
    かなえているか。
  • なぜ他社ではなく、自社製品・サービスが選ばれているのか。

外部環境

これまでの外部環境について、捉えなおす必要があります。

  • 自社/事業をとりまく外部環境(世の中の流れ)をまずは書き出す。
  • 書き出した外部環境が自社/事業にとってチャンスか、リスクかを選別する。

全社課題/事業課題

これまでの課題(弱み)について、捉えなおす必要があります。

  • 自社/事業における目的、経営方針の実現や持続的成長の障壁となっているポイントはどこか。
  • 理想の姿と現在のギャップをうめるには、何をすればよいか。

(C)これからの価値創造メカニズム

ここのポイントは、現在の延長線で積み上げて考えるのではなく、未来に発想をとばして、白紙から自社の未来を考えてみることです。

価値

社会全般、業界の変化や顧客自体、顧客の期待・課題の変化などを考慮し、自社が何をするか考えます。なお、正解はありませんので、自社は何をやりたいのか、を考えてみてもよいと思います。

  • 20XX年、自社のまわりで、どんな変化がありそうか。
  • 20XX年の環境変化により、顧客にどんな変化がありそうか。
  • 20XX年の顧客の変化に対して、自社は、どんな相手に、どんな解決策(価値)を提案したいか?
  • 社会や顧客に対し、どんな結果やインパクトをもたらしたいか。

ビジネスモデル

  • どのように価値を提供するか(経営資源を価値に変換するか)。
  • 経営資源の組み合わせ方に、どのような工夫が必要か。
  • また、どんなパートナー、顧客へのアクセス方法が必要か。

資源

  • これからのビジネスモデルにおいて必要になる経営資源(ヒト・モノ・カネ・知的資産※)は何か。
  • 他社との差異化の要因となる経営資源や知的資産※は何か。

※「経営デザインシート作成シート」(内閣府)では、「知的財産」とされていますが、当ブログでは、より広範囲な「知的資産」としています。「知的財産」と「知的資産」の違いは以下のブログをご参照ください。
【参考】ブログ「事業価値を高めるには?

(D)これまでからこれからへの移行戦略

ここでは、自社・事業をとりまく外部環境の観点で整理します。

外部環境

  • 自社/事業をとりまく外部環境(世の中の流れ)は何か。

移行のための課題

  • 「これからの価値を生み出すしくみ」の実現において、障壁となるポイントはどこか。
  • その障壁をなくすためには、何があればよいか。

必要な資源

  • 「これからの経営資源」で新たに書き出されたもの、それら経営資源を得るために一時的に必要になる経営資源を書き出す。
  • 書き出す際に、量的不足か質的不足かを考える。

解決策

具体的に考えるために、いつ、どこで、誰が(誰から)、何を、どのように、を意識して記載します。

  • 価値を生み出す仕組みの「これまで」と「これから」のギャップは何か。
  • また、このギャップを埋めるために、必要な活動は何か。
  • 「移行のための課題」 の解決、「必要な経営資源の獲得」のために、必要な活動は何か。

まとめ

経営デザインシートでは、経営者の頭の中にある将来のビジネス構想を整理できます。また、見える化することもできます。シートを従業員や支援者との対話ツールとして活用するのもよいと思います。目指す方向性を共有することができます。目に見えにくいものを見える化することによって、他者と共有することが重要です。