昨年の12月16日に2023年度税制改正大綱が公表されました。そこで今回は、インボイス制度導入にあたっての負担軽減措置について解説します。
税制改正によるインボイス制度への影響
インボイス制度の開始時期は2023年10月1日です。また、登録期限は原則として2023年3月31日です。
登録は2021年10月1日から開始されました。しかし、登録開始から1年あまりの間に、負担軽減を求める声が多く出てきました。その結果、2023年度税制改正大綱で3つの負担軽減措置が施されました。
上記はポイントのみの掲載ですので、若干の補足をします。
税負担の軽減措置【補足】
事例の解説
- イラスト制作を事業としている免税事業者(売上高800万円)
- インボイス登録をして課税事業者となり、簡易課税を選択
- イラストレーターは専門サービス業〔72〕著述・芸術家業〔727〕であり、第5種事業
- 第5種事業のみなし仕入率は50%
- 本来は消費税を40万円納税するところ、今回の軽減措置により納税額は16万円
売上に係る消費税額 :800万円×10%=80万円
仕入に係る消費税額 :800万円×10%×みなし仕入率50%=40万円
本来納付する消費税額:80万円-40万円=40万円
今回の軽減措置(2割特例):80万円×20%=16万円
【参考】国税庁タックスアンサーNo.6505「簡易課税制度」、「日本標準産業分類からみた事業区分」
軽減期間は
令和5年(2023年)10月1日から令和8年(2026年)9月30日までの日の属する各課税期間(3年間)
適用対象者は
以下のいずれかに該当する場合です。
- 免税事業者が、インボイス発行事業者の登録を受け、登録日から課税事業者となる者
- 免税事業者が、課税事業者選択届出書を提出した上で登録を受けてインボイス発行事業者となる者
適用除外は
以下の場合、2割特例措置は適用できません。また、課税期間の短縮特例(1か月、3か月)を適用している場合も適用できません。
- インボイス発行事業者の登録を受けていない場合
- 基準期間(個人:前々年、法人:前々事業年度)における課税売上高が1千万円を超える場合
- 資本金1千万円以上の新設法人
- 令和5年(2023年)10月1日前から課税事業者選択届出書を提出して課税事業者となっている場合
⇒2023年4月1日以降、課税事業者選択不適用届出書を提出することで2割特例を適用することが可能となります。
【参考】ブログ「消費税の課税事業者・免税事業者とは?」
適用手続は
消費税の確定申告書に、2割特例の適用を受ける旨を付記する必要があります。
2割特例の継続の可否
消費税の申告の都度、2割特例を適用するか否か選択が可能です。ただし、申告する課税期間が2割特例の対象期間になるか確認が必要です。
2割特例を適用しないほうがよいケース
卸売業で簡易課税を適用している場合、第1種事業でみなし仕入率が90%です。したがって、2割特例措置を活用するとかえって損をすることになります。
したがって、今後は、インボイス登録をするか、原則課税or簡易課税、2割特例を活用するか否か、事前に検討が必要です。
事務負担の軽減措置【補足】
一定規模以下の事業者に対する少額特例
支払対価の額が1万円未満であれば、帳簿のみの保存で仕入税額控除できます。したがって、インボイスは不要です。なお、少額特例の判定単位は、課税仕入れに係る1商品ごとの金額により判定するのではなく、一回の取引の合計額が1万円未満であるかどうかにより判定することとなります。例えば、9千円と8千円の商品を同時に購入した場合、17千円の取引となりますので、少額特例の対象とはなりません。
適用対象者は
基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間(※)における課税売上高が5千万円以下の事業者が、適用対象者となります。
※ 「特定期間」とは、個人事業者については前年1~6月までの期間をいい、法人については前事業年度の開始の日以後6月の期間をいいます。なお、特定期間における5千万円の判定に当たり、課税売上高による判定に代えて給与支払額の合計額の判定によることはできません。
適用期間は
適用期間は、令和5年(2023年)10月1日~令和11年(2029年)9月30日
少額な返還インボイスの交付義務の免除
値引きや返品などの税込価額が1万円未満であれば、適格返還請求書は不要です。
適用対象者は
すべての事業者が対象となります。
適用期間は
令和5年(2023年)10月1日以後の売上に係る値引き・返品が対象となります。適用期限はなく、恒久的な措置です。
インボイス制度の登録申請期限の延長【補足】
本来のインボイス登録締切期限は令和5年(2023年)3月31日でした。このため、期限を過ぎて登録申請する場合、登録申請書に「困難な事情」を記載する必要がありました。しかし、今回の税制改正により、「困難な事情」は記載不要となりました。だからといって締切日後に提出するのではなく、早めに検討すべきと思います。
【2023年1月23日追記】
【参考】財務省「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答」(2023年1月20日時点)
まとめ
さて、今回は、2023年度税制改正によるインボイス制度への影響について解説しました。軽減措置は歓迎すべきことですが、制度としては複雑になってきます。したがって、今後は、インボイス登録をすべきか否かだけでなく、原則課税か簡易課税か、2割負担特例を使うか否か、など消費税について判断することが多くなります。