種山会計士

今回は、中小企業において不正防止に役立つ、内部統制について解説します。
・上場企業で必須の内部統制とは?
・内部統制にも限界がある?
・中小企業でも内部統制は必要?

内部統制とは

最近、行政機関の誤送金が問題になっています。
ただ会社経営、特に中小企業経営者の立場からは笑い事ではありません。中小企業では経理が一人であるケースも多く、同じことが起こらないとは限りません。場合によっては、使い込みや横領などにもつながりかねません。

内部統制とは、
業務の有効性及び効率性
財務報告の信頼性
事業活動に関わる法令等の遵守並びに
資産の保全
の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、
業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセスをいい、
(1)統制環境
(2)リスクの評価と対応
(3)統制活動
(4)情報と伝達
(5)モニタリング(監視活動)及び
(6)IT(情報技術)への対応
の6つの基本的要素から構成されます。

出典:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(2019年12月13日)に筆者一部加工

簡潔にいうと「企業不祥事を防ぎ、効率的に事業を行うための社内体制」のことを内部統制といいます。

内部統制には4つの目的がある

  1. 業務の有効性及び効率性
    事業活動の目的の達成のため、業務の有効性及び効率性を高めること。
  2. 財務報告の信頼性
    財務諸表及び財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性のある情報の信頼性を確保すること。
  3. 事業活動に関わる法令等の遵守
    事業活動に関わる法令その他の規範の遵守を促進すること。
  4. 資産の保全
    資産の取得、使用及び処分が正当な手続及び承認の下に行われるよう、資産の保全を図ること。

内部統制の6つの構成要素

  1. 統制環境
    組織の気風を決定し、組織内の全ての者の統制に対する意識に影響を与えるとともに、他の基本的要素の基礎として影響を及ぼす基盤のこと。
  2. リスクの評価と対応
    組織目標の達成に影響を与える事象について、組織目標の達成を阻害する要因をリスクとして識別、分析及び評価し、当該リスクへの適切な対応を行う一連のプロセスのこと。
  3. 統制活動
    経営者の命令及び指示が適切に実行されることを確保するために定める方針及び手続のこと。
  4. 情報と伝達
    必要な情報が識別、把握及び処理され、組織内外及び関係者相互に正しく伝えられることを確保すること。
  5. モニタリング
    内部統制が有効に機能していることを継続的に評価するプロセスのこと。
  6. ITへの対応
    組織目標を達成するためにあらかじめ適切な方針及び手続を定め、それを踏まえて、業務の実施において組織の内外のITに対し適切に対応すること。

上場企業では内部統制は必須

上場会社では、金融商品取引法の「内部統制報告制度」(J-SOX法)への対応が不可欠です。
なお、「内部統制報告制度」とは、上場企業に対して事業年度ごとに内部統制報告書の提出を義務付ける制度です。上場企業の経営者は、内部統制が有効に機能していることを自ら評価して「内部統制報告書」を作成し、監査法人(公認会計士)の監査を受けなければなりません。したがって、IPOを予定している未上場会社も必須です。

内部統制監査が必要な理由の一つとして、効率性があります。取引発生から決算書作成まで、上場企業の膨大な量の数字全てをチェックできません。お金を水に例えると、内部統制は土管です。会社の業務で流れてくる数字を一つ一つチェックするのではなく、ちゃんと流れているのか、土管をチェックするのが内部統制監査です。

内部統制には4つの限界がある

  1. 内部統制は、判断の誤り不注意複数の担当者による共謀によって有効に機能しなくなる場合がある。
  2. 内部統制は、当初想定していなかった組織内外の環境変化非定型的な取引等には、必ずしも対応しない場合がある。
  3. 内部統制の整備及び運用に際しては、費用と便益との比較衡量が求められる。
  4. 経営者が不当な目的の為に内部統制を無視ないし無効ならしめることがある。

複数人の牽制をベースにしているので、共謀されると機能しません。また非定型的な取引にも対応が難しいです。さらに経営者不正については、経営者自身が構築しているのですから、全く機能しません。内部統制の構築・運用にはコストがかかります。したがって、費用対効果も考慮する必要があります。

中小企業に内部統制は必要か

内部牽制の仕組みをつくる

業務の効率化や法令順守を考えた場合、中小企業でも内部牽制は必要です。未上場企業においても、大会社かつ取締役会設置会社では、内部統制システムの構築が義務付けられています(会社法第362条四項六号、五項)。しかし、多くの中小企業にとって、内部統制の整備及び運用は費用対効果に見合いません。ただし、誤送金や横領、使い込みを防ぐ手段は必要です。そこで、内部統制の発想を利用して、防ぐ手段を考える必要があります。

経理担当を複数にする

経理業務はできるだけ一人に集中させないようにします。特に、現金を扱う機会が多い場合、現金を管理する人と現金出納帳をチェックする人を分けます。小規模零細企業であれば、社長がチェックすべきです。

内部稟議・決裁体制を複数にする

また、現金決済にあたって、決済までに担当者以外のチェックが必ず入るようにします。経理担当者が一人で振込までできる体制では誤送金などが発生しやすい環境です。

業務内容が第三者からチェックできるようにする

経理であれば、クラウド会計を使用して、他の担当者がすぐに見れるようにします。誰からでも見れる状態というのはそれだけで牽制機能が働きます。

まとめ

今回起きた行政機関の誤送金ですが、送金担当者だけが悪いわけではありません。組織の長が誤送金が起きないような組織体制をつくる必要があります。また人間魔がさすこともありますので、そういった不正が起きないような内部統制は、従業員を守るといった点でも必要です。しかし、中小企業の場合、大規模会社以上に、規模に応じた費用対効果を考えて取り組む必要があります。