このコラムでは、息子・娘が会社を継ぐかどうかわからない段階で、思い込みだけで廃業を決めないための進め方を解説します。
よくあるご相談
社長(60歳)製造業(従業員10名)を営んでいる60歳の経営者です。息子(30歳)がいますが、会社を継ぐ気がないようなので、廃業を考えています。しかし、従業員や取引先のことを考えると迷います。何か方法はないのでしょうか?
当事務所からの回答



このご相談で注意していただきたいのは、「継ぐ気がないようなので」という部分です。息子さん本人に確認した結果ではなく、推測です。推測の段階で、廃業という重い判断に進もうとされています。同じ状況の社長は少なくありません。以下では次の3点を中心に解説していきます。①継ぐかどうかわからない段階で、最初に行うべきこと、②意思確認の結果に応じて、どのような選択肢があるか、③引継ぎ先が見つからない場合、誰に相談すべきか
継ぐ・継がないの結論を出す前に、まず息子さんに直接聞いてみましょう。業績が芳しくない場合でも、事業の先行きを社長一人で決めてしまわず、息子さんと話をすることが出発点です。
そのうえで、確認の結果に応じて次の順序で検討します。
- 息子さん本人に、継ぐ意思があるかを直接確認する
- 意思がなければ、親族内に他の候補がいないかを検討する
- 次に、社内の従業員への承継を検討する
- 従業員にも候補がいなければ、第三者への承継(M&A・創業希望者への引継ぎ)を検討する
- 引継ぎ先がなく、事業の継続も難しい場合に、初めて廃業を検討する
つまり、廃業は推測で決めるものではありません。意思確認と選択肢の検討を経た、最後の段階に位置します。
解説
なぜ「思い込み」が起きるのか——まず本人に聞く理由
「息子は継ぐ気がない」と社長が思い込んでいるケースは、実は少なくありません。
「継ぐ気はあるのか」と、一度も本人に聞いたことがない——というケースも多いのです。
一方、子どもの側にも事情があります。
- 継ぐ意思はあるが、事業の先行きが不安で言い出せない
- 親から何も言われないので、継がせる気がないと思っていた
つまり、親子の双方がこの話題を避けた結果、確認されないままの推測だけが積み重なっている状態です。
また、業績が芳しくないと、「こんな会社を継がせられない」と社長一人で結論を出してしまうことがあります。しかし、事業の将来性の見え方は、継ぐ側からは違って見える場合があります。そこは勇気をもって、今後の会社と家族について本人と話し合う必要があります。
意思確認をせずに廃業を進めてしまうと、後から「継ぐつもりだった」と分かっても取り返しがつきません。逆に、「継がない」と明確になれば、その時点から他の選択肢を早く検討できます。
どちらの答えでも、聞いた分だけ判断は前に進みます。
継ぐ意思があると分かった場合:後継者の育成と事業承継計画
継ぐ意思があると分かったら、後継者の育成を始めます。育成には、一般に5〜10年程度かかると言われます。具体的には、次のような取り組みです。
- 取引先・従業員・メインバンクなど、関係者の理解を得る
- 社内の各部門を経験させる(ジョブローテーション)
- 社外の後継者研修を受講させる
したがって、承継の時期から逆算して、計画的に進める必要があります。
事業承継計画は、社長と後継者が一緒に作ります。コンサルタントが社長だけに話を聞いて作るケースもありますが、後継者が関わらない計画は、実行の段階で機能しにくい傾向があります。
特に、経営理念・ブランド・ノウハウ・技術力といった「目に見えない会社の強み」は、社長と後継者の対話を通じてしか引き継げません。この場面では、第三者の専門家が入った方が、強みを客観的に把握しやすくなります。
また、次のような課題には法務・税務の専門知識が必要です。
- 自社株式や事業用の不動産を、いつ・どの方法(贈与・相続など)で後継者に移すか
- 後継者以外の親族に、財産をどう配分するか
この段階では、専門家のサポートを受けるのが一般的です。
継がないと明確になった場合①:従業員への承継
息子さんに継ぐ意思がなく、親族内に他の候補もいない。そう明確になった場合は、次に、社内の従業員に候補がいないかを検討します。
ただし、従業員は経営者になるつもりで入社していないことが多いものです。そのため、「会社を継ぐ覚悟」という点で、親族内承継より難易度が高くなる傾向があります。具体的には、次の課題があります。
- 銀行に対する経営者保証の引継ぎ
- 社長の親族・取引先・従業員からの理解
- 自社株式を社長から買い取るための資金の準備
なお、歴史があり内部留保が厚い会社ほど、株価は高くなりやすい傾向があります。その場合、買取資金も多額になります。資金の準備をどう設計するかが、承継の成否を左右します。
継がないと明確になった場合②:第三者への承継(M&Aなど)
親族にも従業員にも候補がいない場合は、社外の第三者への承継を検討します。方法は主に次の3つです。
- 他社への会社売却(M&A)
- 後継者候補を外部から招く
- 創業希望者への引継ぎ
この場合、引継ぎ先をどう見つけるかが最大の難関です。近年は、金融機関や公的支援機関に相談する経営者が増えています。公的支援機関では、「事業承継・引継ぎ支援センター」が全国47都道府県に設置されています。国の機関であり、相談は無料です。会社を譲りたい側と譲り受けたい側の情報がデータベースに登録されており、全国規模でのマッチングが可能です。小規模な会社向けには、創業希望者と引き合わせる「後継者人材バンク」もあります。
引継ぎ先が見つからない場合:廃業の検討
第三者への承継も難しい場合、廃業を検討することになります。ただし、従業員の雇用や地域経済への影響を考えると、すぐに結論を出せるものではありません。
重要なのは、経営に余力があるうちに相談を始めることです。資金繰りに行き詰まってからでは、選べる道が大きく減ります。相談先には、顧問税理士のほか、商工会議所などに設置されている経営安定特別相談室もあります。
まとめ
- 「継ぐ気がないようだ」は推測であり、判断の根拠にはならない。
- 廃業を考える前に、必ず本人に直接聞く。
- どちらの答えでも、聞いた分だけ判断は前に進む。
- 継がないと明確になった後は、親族→従業員→第三者→廃業の順に検討する。
- 廃業は最後の選択肢。余力があるうちの相談が、選べる道を残す。
息子さんと話す前に、材料を揃えておきたい方へ
本人と話し合う前に、「継がせる場合・継がせない場合で、何がどう変わるか」を把握しておくと、話し合いが推測ではなく事実に基づいたものになります。株価・税負担・個人保証を同じ条件で比較する材料の整理は、初回相談で対応しています。
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