最終更新日:2022年9月2日
「あなたの会社に出資したい」
中小企業経営者にとって、こう言われて悪い気はしないと思いますが、いくつか注意点があります。
今回は、中小企業が出資を受ける際の注意点について、ざっくりと解説します。
【この記事を読んで得られること】
- 第三者割当増資時の株価しだいで出資後の議決権割合が変わる?
- 第三者割合増資で、知らずに「みなし贈与」課税になっていないか?
- リスク回避のため、事前に専門家に株価算定をしてもらうのが無難?
最近のベンチャーへの投資状況
日本経済新聞にて、大企業がCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を設立し、スタートアップ企業に投資を拡大している、という記事が1面に掲載されていました。
技術革新が急速に進む中で、大企業であっても、社内だけでは新規開発できない状況です。
したがって、大企業がベンチャー企業に投資することは今後増加していくと思われます。また、ベンチャー企業にとっても、大企業にM&Aで売却することが出口戦略になりつつあります。
出資 を受けた後の議決権割合に注意
特定の第三者に株式を有償で引き受けてもらう資金調達手法を第三者割当増資といいます。第三者割当増資を実施する際は「株価」に注意が必要です。なぜなら、増資時の株価によって、自分の議決権割合が変わってしまうからです。
例として、以下の会社が出資を受けるケースをみていきます。
・資本金 :10,000千円
・発行済み株式数:200株(社長Aが100%所有)
・1株当たり50千円(10,000,000円÷200株=50,000円/株)
第三者B社の出資額を10,000千円とします。
株価が100千円/株のケース
出資額10,000千円÷100千円/株=100株
社長Aの議決割合は200/(200+100)=67.7%となります。
したがって、2/3以上を所有しているため、社長Aは株主総会の特別決議を単独で決議できます。
【参考】ブログ「会社支配に議決権はどの程度必要か?」
株価が50千円/株のケース
出資額10,000千円÷50千円/株=200株
社長Aの議決割合は200/(200+200)=50.0%となります。
新株主B社の議決権割合も50.0%となります。
したがって、誰も過半数を所有しておらず、誰も決議ができない状態になります。このような状態をデッドロックと言って、絶対に避ける必要があります。
株価が25千円/株のケース
出資額10,000千円÷25千円/株=400株
社長Aの議決割合は200/(200+400)=33.3%となります。
新株主B社の議決権割合は67.7%となり、B社が単独で特別決議を決議できる状態です。
したがって、自社はB社の子会社になります。今後、社長Aは親会社B社の意思決定に基づいて会社を経営していくことになります。
【参考】ブログ「会社支配に議決権はどの程度必要か?」
以上より、出資額が同じであれば、その時の株価が高ければ高いほど、出資者が所有する株式数は少なくなり、自分の議決権割合を高く維持できることになります。
第三者より出資を受ける際は、まず事前に顧問会計士・税理士に「株価」を算定してもらってシミュレーションするのが無難です。
知らずに「みなし贈与」になっていないか
未上場企業の第三者割当増資では、知らずに「みなし贈与」リスクが発生していることがあります。
例として、以下の会社に出資されるケースについてみていきます。
・会社純資産 :100,000千円
・発行済み株式数:2,000株(社長甲が100%所有)
・1株当たり純資産50千円(100,000,000円÷2,000株=50,000円/株)
時価発行した場合
まずは時価発行した事例を見ていきます。
乙が80,000千円出資し、1株50千円で取得株式数1,600株の場合
出資後純資産 :会社純資産100,000千円+80,000千円=180,000千円
発行済み株式数 :2,000株+1,600株=3,600株
1株当たり純資産:180,000千円/3,600株=50千円/株
社長甲の持分 :2,000株×50千円/株=100,000千円 で財産価値の変動はありません。
新株主乙の持分 :1,600株×50千円/株=80,000千円
低額発行した場合
次に低額発行した場合を見ていきます。
丙が80,000千円出資し、1株20千円で取得株式数4,000株の場合
出資後純資産 :100,000千円+80,000千円=180,000千円
発行済み株式数 :2,000株+4,000株=6,000株
1株当たり純資産:180,000千円/6,000株=30千円/株
社長甲の持分 :2,000株×30千円/株=60,000千円
財産価値が40,000千円減少(100,000-60,000千円)
新株主丙の持分 :4,000株×30千円/株=120,000千円
財産価値が40,000千円増加(120,000-80,000千円)
したがって、社長甲から新株主丙に40,000千円の財産価値が移動しています。
これを「みなし贈与」といいます。
まとめ
さて、いかがでしたか。第三者割当増資をする際の注意点について、いくつか説明しました。他にも、事業承継時、後継者に新株発行して自社株式の議決権を移転させるスキームがあります。この場合でも、後継者にとって少しでも金銭負担を少なくして株式を多く取得させようとすると「みなし贈与」課税のリスクがあります。「みなし贈与」課税リスクは事前にわかりにくく、公認会計士・税理士といった専門家に相談したほうが無難です。
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