
経営者の方から「顧問税理士が経営相談に対応してくれない」という不満を聞くことがあります。今回は、税理士の独占業務の観点から解説します。
このブログは、2021年10月5日に初公開した記事に最新情報を加味して更新したものです。
税理士が経営相談にものってくれるのは普通のことか?
経営者は孤独であり、日常の経営にあたって、誰かに相談したくなるのは当然です。
月1回程度接触のある顧問税理士 は、お金まわりの相談 をする相手として最適です。
しかし、中小企業経営者の方から「うちの顧問税理士は経営の相談にのってくれない」という話がよく出てくるのはなぜでしょうか。また、顧問税理士が経営相談に対応するのは当たり前のことなのでしょうか。
今回は、税理士の独占業務の観点からみていきます。
税理士の独占業務について
税理士は、他人の求めに応じ、租税に関し①税務代理、②税務書類の作成、③税務相談を行います(税理士法第2条)。以下、それぞれ見ていきます。
【参考】国税庁「非税理士により行うことが禁止される税理士業務」
税務代理
納税者に代わって、所得税や法人税などの申告、申請、請求、届出等を行う業務です。また、税務署による調査や処分に対して、納税者の立場で主張や陳述を行うことも含まれます。
税務書類の作成
「税務書類」とは、税務署に対して提出する申告書等の書類を指します。具体的には、租税に関する法令の規定に基づいて作成される書類であって、かつ、税務官公署に提出するもののうち、財務省令で定められた書類をいいます。たとえば、以下のような書類が該当します。
- 所得税、法人税、相続税、贈与税等の各種申告書
- 修正申告書、更正の請求書
- 青色申告の承認申請書や届出書類
- 消費税や印紙税に関する申告書類
- 各種税目に関する申請・届出書(納税猶予申請など)
ちなみに、「税務書類の作成」というのは、単に誰かが作った書類を清書することではありません。税理士が、依頼者から提出された資料をもとに、税法に照らして内容を確認・判断し、専門家として責任をもって作成することが求められます。いわゆる「代書屋」的な単なる転記作業とは、まったく異なる専門業務です。
税務相談
「税務官公署に対する申告等、第1号(税務代理)に規定する主張・陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずること」です。
「相談に応ずる」とは、相談を受けて意見を述べたり、教示したりすることです。その内容は相談者(納税者)の個別具体的な納税義務に係わるものです。単に仮定の事例に基づいた計算や一般的な税法の解釈などは税務相談には該当しません。
例えば、個別具体的な事例であっても、大学や各種学校などの授業の教材である場合は、税理士業務ではありません。また同じ内容であっても、それが具体的な納税義務にかかる個別的な事案である場合は、税務相談に当たります。
税理士業務は無償独占業務
以上のように、税理士の無償独占業務が税理士法に規定されています。これは、有料、無料に関係なく、税理士しか行えない業務ということです。
したがって、無資格者者が、個別・具体的な税務相談に対応しているのは税理士法違反です。最近は事業承継支援が盛んですが、税理士以外の金融機関、コンサル会社などの無資格者が個別具体的な税務相談に対応するのは税理士法違反です。
なお、経営コンサルタントの国家資格に「中小企業診断士」があります。しかし、中小企業診断士であっても、経営相談にのることは独占業務ではありません。経営相談分野は、マーケティング、財務、会計、税務、人事、法務など多岐にわたり、経営相談の内容も経営者のステージや時期によって異なります。したがって、それらすべてに対応するのは不可能です。
【参考】ブログ「顧問税理士の探し方入門」
まとめ
税理士の無償独占業務は税務代理、税務書類の作成、税務相談です。
したがって、「経営相談対応」は税理士という資格とは何ら関係性のないスキルです。
また、補助金等の提案をする税理士もいますが、自分自身で勉強したり、事務所の運営から学んで会得したスキルです。なお、経営者から相談されて自分で解決できない問題であっても、普段から専門家のネットワークを構築している税理士であれば、問題解決にマッチした相手を紹介してくれると思います。