最終更新日:2022年10月3日
最近、大企業が減資して中小企業 になること(中小企業化)が増加してきました。直近では、旅行会社のHISが資本金を246億円減少させて1億円にしました。
今回は、減資して中小企業化するメリットについて解説します。
【この記事を読んで得られること】
- 減資とは?
- 減資して中小企業になるメリットは?
- その他、資本金を基準とする主な制度は?
減資とは
「減資」とは、資本金の額を減少させ、資本準備金の額またはその他資本剰余金の額を増加させる手続のことです(会社法第447条)。なお、資本金額の減少と株数の減少は無関係です。
2005年改正前商法では、有償減資と無償減資の2つがありました。現在の会社法では、有償減資は、無償減資によって生じたその他資本剰余金を配当(あるいは自己株式の取得)することによって同様の効果があります。
また、減資は、原則として、株主総会の特別決議が必要です(会社法第309条2項)。
【参考】ブログ「会社支配に議決権はどの程度必要か?」
さらに、債権者保護手続として、1か月以上の期間を定めて官報に公告し、知れたる債権者については個別に催告をする必要があります(会社法第449条)。減資後、2週間以内に資本金額の変更登記をする必要があります(会社法第911条、915条)。
以下では、資本金5億円以上の株式会社が減資することによってどのような影響があるのか、まとめました。
資本金が5億円未満になると会社法監査対象から外れる
資本金が5億円以上または負債金額200億円以上の場合、会社法監査の対象となります(会社法第328条)。したがって、減資して資本金5億円未満(かつ負債金額200億円未満)となると、公認会計士(監査法人)による監査を受ける必要がなくなります。ただし上場している場合、引き続き金融商品取引法監査を受ける必要があります。
資本金が1億円以下になると税の優遇措置がある
減資して資本金が1億円以下になると、税制上「中小企業」となり、税の優遇措置が受けられます。
【参考】ブログ「自分が払っている税金の種類を言えますか?」
地方税
外形標準課税(法人事業税)
外形標準課税とは、事業所の床面積や従業員数、資本金等及び付加価値など、外観から客観的に判断できる基準を課税ベースとして税額を算定する課税方式です。法人事業税として、資本金1億円超の法人に課税されます。したがって、資本金を1億円とすると、外形標準課税対象から外れることになります。減資した際の効果として真っ先に指摘される節税です。
法人住民税(均等割)
法人住民税には、法人税割と均等割があります。このうち、均等割とは、法人の所得が赤字であっても、資本金や従業員数に応じて課税されるものです。例えば、資本金等の額が1,000万円で、従業員が20人の場合、都道府県民税均等割2万円+市町村民税均等割5万円の合計7万円となります。

出典:総務省「法人住民税」
なお、「資本金等の額」とは、資本金の額に資本準備金を加えた上で無償増減資等を調整したものです。したがって、減資したからといって、必ずしも法人住民税均等割が減額されるわけではありません。例えば、従業員20人・資本金3,000万円の会社があります。この会社が資本金1,000万円に減資したら、必ず均等割が18万円から7万円に減額されるわけではありません。減資実施前に、必ず専門家に確認されることをお薦めします。
【参考】東京都主税局「均等割の税率区分の基準となる「資本金等の額」チェックポイント」
国税(法人税)
青色欠損金の繰越控除、欠損金の繰戻し還付
青色申告であれば、当事業年度の黒字と過去の赤字を相殺できます。資本金が1億円超であれば、当期の黒字の50%までしか過去の赤字と相殺できません。減資して中小法人等になれば、当期の黒字100%を過去の赤字と相殺できます。したがって、過去から累積した赤字があって、リストラの一環で当期に資産を売却して売却益が出る場合、黒字の100%を過年度赤字と相殺できますので、中小法人等のほうが税金を抑制することができます。なお、制度の中小法人等の定義は以下のブログをご参照ください。
【参考】ブログ「赤字は何年繰り越せる?」
法人税率の特例
法人税の税率は23.2%です。ただし、中小法人等の年800万円以下の所得に対しては、15%の軽減税率が適用されます。なお、2023年4月1日以後開始する事業年度は19%となります。
(注)中小法人であっても、前3年間の年間平均所得金額が15億円超の法人は適用除外です。
その他、優遇される主な税制は以下のとおりです。
- 貸倒引当金の特例
- 交際費等の定額控除(年間800万円まで)
- 少額減価償却資産の取得原価の損金算入の特例
- 機械等を取得した場合の特別償却又は法人税額の特別控除 など
会社法監査、税金以外で資本金を基準とする主な制度
中小企業基本法上の「中小企業」は資本金または従業員で判断
中小企業基本法上の中小企業は、資本金額または従業員数によって該当するか否か判定します。以下の表のとおり、業種によって資本金の基準が異なります。この定義では、資本金または従業員数で判断する点は注意が必要です。例えば、卸売業で、資本金2億円、従業員数が100人であれば、中小企業に該当します。また同様に、資本金1億円、従業員数2,000人であっても、中小企業に該当します。中小企業に該当すると、中小企業庁などが公募する補助金にも申し込めるようになります。なお、税制上の中小企業の定義とは一致しませんので、注意が必要です。

出典:中小企業庁「FAQ中小企業の定義について」
下請法
下請取引の公正化を図り、下請け事業者の利益を保護するための法律です。下請法の対象となる下請取引は①取引内容、②事業者の資本金(又は出資金)の両面で定められています。資本金1,000万円超の会社は下請法の規制を受けます。取引内容によっては、資本金3億円(あるいは5千万円)を超えるか否かで対象となる事業者が変わってきます。

出典:公正取引委員会「下請法の概要」
まとめ
以上、いかがでしたか。今回は資本金5億円以上の株式会社が減資する場合を中心にまとめました。資本金を基準としている制度は多いですが、それぞれで定義が異なります。今後、貴社が増減資をする場合、どのような影響があるのか、事前の検討が重要です。
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