このコラムでは、国税庁の有識者会議(第5回)の資料を整理します。示された自社株評価見直しの方向性と、会社によって影響が分かれる点を確認します。制度は検討段階にあり、確定した内容ではない点を前提にお読みください。
何が公表されたのか
国税庁は、取引相場のない株式の評価について有識者会議を開催しています。第1回(2026年4月20日)から始まった会議ですが、第5回会議(8月20日)で、国税庁が考える見直しの方向性が示されました。そもそもの検討の直接の契機は、会計検査院の指摘で、令和5年度決算検査報告で示されました。
現行の枠組みと見直し案
現行制度は、会社を大会社・中会社・小会社に区分し、大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式を基本とします。資料では、この規模別区分を廃止し、共通の評価方式とする案が示されています。また、類似業種比準方式は理論的な裏付けを欠くため、存置は困難ではないか、との整理です。
残余利益方式という選択肢
代替案として示されたのが残余利益方式です。「①簿価純資産 ± ②数年分の超過収益」で算出します。超過収益とは、通常期待される利益を上回る金額の数年分の現在価値です。有識者からは5年分が良いのではないかという意見があったと記載されています。
時価ではなく簿価
継続企業を解散前提の時価純資産価額で評価すべきではない、との整理があります。これを踏まえ、事業用土地等は継続使用を前提とした帳簿価格とする案です。建物・設備等は減価償却後の価額です。時価への洗替えが不要となる点が利点として挙げられています。
評価額が上下する基準
判定は利益の金額そのものではなく、期待される収益水準との比較で行われます。基準となるのは、保有資産に対してどの程度の収益を上げているかです。利益額が大きいことが、直ちに評価額の上昇を意味するわけではありません。
会社により影響は異なる
期待される収益水準を上回る会社では、簿価純資産に超過収益が加算され、評価額が高くなる方向です。一方、事業用不動産の含み益が大きい会社では、簿価を基礎とする案が適用されれば含み益は評価額に反映されにくくなります。
資産保有型会社の扱い
ただし、含み益のある会社が一律に低く評価される整理ではありません。資料では、純資産価額方式を「特定の評価会社の株式の評価方式」として存置する案が示されています。第4回会議では、少なくとも資産管理会社は純資産価額方式で評価することについて意見が求められ、複数の委員が妥当との意見を示しています。
評価額圧縮への対応
租税回避スキームへの対応も示されています。利益操作の例として、オペレーティング・リースが挙げられています。一時的な役員退職金等も同様です。非経常的な損益を除外し、「企業の正常利益」で評価する案です。配当還元方式についても、株主構成の操作による濫用が指摘されています。適用する株主の範囲や、従業員持株会株式の取扱いを見直す案です。


持株会社とグループ評価
完全支配関係にある法人間で親会社の利益・資産を子会社へ移転して評価額を圧縮する手法に対し、グループ全体として評価を行い、傘下法人の評価を親会社の株価へ反映する案が示されています。持株会社の設立そのものが否定される内容ではありません。
会議の合意ではない点
第4回議事要旨では、座長から、現時点で評価方式を一本化する、または類似業種比準方式を廃止するといった合意はないとの発言が記録されています。国税庁は令和8年秋を目途に一定の方向性を示す予定としていますが、適用時期は確定していません。
事業承継税制は別の議論
国税庁は、「評価」と「政策税制」を切り分けて議論する考えを示しています。事業承継税制は、中小企業庁の検討会で別途検討されています。評価方法が変わることをもって、同じ方向に変わるとは限りません。
まとめ
現時点で財産評価基本通達の改正は行われておらず、改正を前提として株式移転や組織再編を急ぐ段階ではないと考えられます。一方、数年以内に事業承継を予定している場合は、現在の自社株評価額に加え、その評価額がどの要因で形成されているのかを確認しておく意義があります。評価方法が変わった場合に自社株へどのような影響が出るのかを把握しておけば、承継時期や株式移転を検討する際の判断材料になります。
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