このコラムでは、帝国データバンクや日本商工会議所の調査結果をもとに、親族内に後継者がいない場合の事業承継の選択肢を整理します。特に、従業員の中に後継者候補がいる場合の懸念点について、解説します。
社内人材への承継が増えている
帝国データバンクの2025年調査では、「内部昇格」36.1%、「同族承継」32.3%でした。
なお、「内部昇格」とは、血縁関係によらない役員・社員が新たな代表者に就任するケースです。この割合は、代表者の就任経緯を示すものですが、従業員承継が増えていることを意味しています。
また、親族に後継者候補がいない場合、M&Aも選択肢として重要です。しかしながら、最近は不適切な買い手とのトラブルが頻発しています。例えば、クロージング後に経営者保証が解除されない悪質なケースがあります。また、退職慰労金の後払いが履行されないケースもあります。このようなトラブルについて、経済産業省は注意喚起を呼び掛けています。
以上より、社内に後継者候補がいる場合、M&Aよりも先に、従業員承継が成立するか、検討すべきです。
最大の難関「株式取得資金があるか」
日本商工会議所は2026年9月、「事業承継に関する実態アンケート」を公表しました。
この中で、後継者への株式移転時の障害を尋ねたところ、親族外に後継者候補がいる企業では、「株式買取資金の確保」が78.1%でした。
長年勤めた後継者の負担を軽くしたいという思いから、できるだけ低い金額での譲渡を考える現社長もいます。しかし、個人間で非上場株式を著しく低い価格で譲渡すると、贈与とみなされる場合があります。

個人で買うか、持株会社で買うか
後継者が株式を取得する場合、個人で取得するか、あるいは、設立した法人で取得するか、の2つが考えられます。
税務上の株価や課税関係は、取得する主体によって異なります。そのため、資金調達手法だけでなく税金関係も考慮して比較する必要があります。
なお、資金調達には、公的融資や信用保証制度が利用できる場合があります。
日本政策金融公庫や信用保証協会では、株式取得資金に利用できる制度がありますが、制度によっては、経営承継円滑化法の認定が必要です。
また、東京信用保証協会には、持株会社による株式取得向けの保証制度もあります。
「経営者保証」の引継ぎ
日本商工会議所の同調査では、親族外に後継者候補がいる企業の25.6%が、「借入金・債務保証の引継ぎ」を課題として挙げています。
後継者に当然に経営者保証を引き継がせるわけではありませんが、現社長の保証を解除できるか、後継者に新たな保証が必要なのかを、承継前に金融機関に確認する必要があります。なお、「経営者保証に関するガイドライン」では、現社長と後継者の双方が保証人になる「二重徴求」は、原則として行わない考え方が示されています。
【ご参考】中小企業庁「事業承継に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則」
なお、信用保証協会には「事業承継特別保証制度」があります。また、金融庁は2026年5月に「M&A・事業承継時における経営者保証情報ネットワーク」を開設しました。
まとめ
親族内承継が難しくても、社内に後継者候補がいるケースは多いです。その場合、すぐにM&Aに進む必要はありません。まず、従業員承継が成立する条件を確認することが先決です。
ただし、株式を買うための借入ができても、それだけでは十分ではありません。返済負担が重すぎれば、承継後の経営を圧迫します。したがって、株価、必要資金、返済原資、経営者保証を一体で確認する必要があります。
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