このコラムでは、事業承継に関する税務の提案を受けたオーナー社長に向けて、税理士法上の注意点と、提案を実行する前に確認すべき事項を解説します。
はじめに
事業承継を検討していると、顧問税理士だけでなく、金融機関やコンサルタントなどから、さまざまな提案を受けることがあります。
例えば、次のような提案です。
- 自社株の評価額を引き下げる
- 持株会社を設立する
- 会社分割などの組織再編を行う
- 役員退職金を活用する
- 事業承継税制を利用する
いずれも、会社の状況によっては有効な方法です。
しかし、ここで注意したいことがあります。
一般的な制度や対策の説明を受けることと、自社に適用した場合の税務上の取扱いについて判断を受けることは異なります。
税理士資格を持たない人が、個別具体的な税務相談を業として行う場合には、税理士法上の問題が生じる可能性があります。
経営者としては、提案の内容だけでなく、税務上の判断を誰が行っているのかを確認することが重要です。
税務相談は税理士の独占業務
税理士法第2条では、税理士業務として次の3つを定めています。
①税務代理
税務官公署への申告等について、納税者に代わって手続を行うことや、税務調査・処分などに関して、納税者に代わって主張・陳述することです。
②税務書類の作成
税務官公署に提出する申告書などの書類を、自己の判断に基づいて作成することです。
③税務相談
申告等や税務書類の作成などに関して、課税標準等の計算に関する具体的な相談に応じることです。
国税庁の税理士法基本通達では、「相談に応ずる」とは、具体的な質問に対して答弁し、指示し、または意見を表明することとされています。
これら3つの業務は、原則として税理士または税理士法人でなければ行うことができません。
ただし、税理士法には、一定の要件を満たす弁護士等による業務など、例外も定められています。
無料でも税理士法の対象になる
特に注意したいのは、無料であれば税務相談を行ってよいわけではないという点です。
税理士法でいう「業とする」とは、税理士業務を反復継続して行うこと、または反復継続して行う意思をもって行うことを指します。
報酬を受け取ることは必須の条件ではありません。
そのため、無料相談や営業活動の一環であっても、非税理士が税理士業務を行う場合には、税理士法に抵触する可能性があります。
税理士法第52条に違反した場合、同法第59条により、2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に処せられる場合があります。
国税庁は、非税理士に税理士業務を依頼することによって、不測の損害や税務上のトラブルが生じるおそれについても注意を呼びかけています。
【参考】国税庁「税理士法違反行為に関するQ&A」
制度説明と税務相談の違い
金融機関やコンサルタントなどが、事業承継に関する制度を説明したり、財務・経営面から提案したりすること自体に問題があるわけではありません。
例えば、金融機関による株式取得資金の融資相談や、コンサルタントによる承継方法の検討は、それぞれの専門領域で重要な役割を果たします。
一方、提案の内容が個別具体的な税務判断に及ぶ場合には、注意が必要です。
| 提案・説明の内容 | 確認すべきこと |
|---|---|
| 事業承継税制の一般的な説明 | 一般的な情報提供か、個別の適用判断に及んでいるか |
| 株式取得資金や借入金の検討 | 財務・金融面の提案にとどまっているか |
| 自社の事情に基づく税額試算 | 誰が税務上の判断を行っているか |
| 組織再編の税務上の取扱い | 税理士が適用要件や課税関係を確認しているか |
| 申告書の作成・税務調査での代理 | 税理士等の資格・権限を有する者が担当するか |
※税理士法上の税務相談に該当するかどうかは、具体的な行為の内容や態様等によって判断されます。この表は、個別の行為について適法・違法を判定するものではありません。
また、将来実行する予定の取引であっても、具体的な取引条件を前提として税務上の回答や判断を求める場合には、その内容によって税務相談に該当する可能性があります。
重要なのは、提案者の肩書だけで判断することではありません。
誰が、どの範囲について、どのような資格と責任で税務上の判断を行っているのか。
経営者は、この点を確認しておく必要があります。
経営者が確認すべき3つの事項
事業承継では、税務上の取扱いによって、会社や株主の負担が大きく変わることがあります。
特に、次の3点を確認することが重要です。
① 税務判断を誰が担当するか
提案書に税額や税務上の効果が記載されている場合、その計算や判断を誰が行ったのかを確認します。
提案者自身が税理士である場合もあれば、別の税理士が関与している場合もあります。
税理士以外の専門家による提案であれば、税務に関する部分を顧問税理士等に確認することが重要です。
税理士の登録状況は、日本税理士会連合会の「税理士情報検索サイト」で確認できます。また、税理士証票の提示を受ける方法もあります。
【参考】国税庁「税理士をお探しの方へ」
② 税額計算の前提は何か
例えば、持株会社の設立を提案された場合です。
持株会社を設立する方法には複数の選択肢があり、株式の移転方法や取引条件などによって税務上の取扱いが異なります。
単に「持株会社を設立すれば税金面で有利になる」という説明だけでは、判断できません。
次のような確認が必要です。
- どのような取引を前提としているか
- 株式の評価額は、いつの数字に基づいているか
- 税制の適用要件を満たしているか
- 会社と株主の双方について税負担を確認しているか
- 前提条件が変わった場合、税額はどう変わるか
これらの前提が異なれば、同じ方法でも税務上の結果が変わることがあります。
また、事業承継税制の利用を想定している場合には、適用要件や期限の確認も必要です。
例えば、法人版事業承継税制の特例措置では、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、対象となる株式の贈与・相続の適用期限は2027年12月31日とされています。
一般的な成功事例や試算例が、そのまま自社にも当てはまるとは限りません。
③ 申告や税務調査は誰が担当するか
税務上の効果を見込んで対策を実行した場合、その後に申告や税務調査への対応が必要になることがあります。
そのため、提案段階だけでなく、実行後の役割分担も確認しておく必要があります。
具体的には、次のような点です。
- 必要な税務申告や届出を誰が担当するか
- 税務上の判断根拠をどのように記録するか
- 税務調査が行われた場合、誰が対応するか
提案を実行する前に、税務判断の根拠と実行後の担当者を明確にしておくことが重要です。
税務だけで承継方法を決めない
もう一つ、経営者が確認しておきたいことがあります。
それは、税務上実行できる方法が、必ずしも会社に適した承継方法とは限らないということです。
例えば、自社株の評価額を引き下げる対策を検討する場合です。
税務上の効果だけでなく、会社からの資金流出、借入金、財務基盤、後継者の資金負担なども確認する必要があります。
また、組織再編によって株式の保有関係を変更する場合には、将来の経営権や親族株主への影響も重要になります。
税務上の判断は、事業承継を進めるために欠かせません。
しかし、それだけで承継方法が決まるわけではありません。
税務・財務・経営・株式・後継者・家族への影響を関連づけて検討し、社長が自社として何を選ぶかを判断する必要があります。
専門家と連携して進める
事業承継では、一人の専門家だけですべての問題を解決する必要はありません。
顧問税理士が税務面を担当し、金融機関が資金調達や個人保証について協議し、必要に応じて別の専門家が財務・経営・承継方針の検討を支援する方法があります。
顧問税理士が全体の中心となり、ほかの専門家と連携して進める場合もあります。
また、税理士以外の専門家から税務を含む提案を受けたとしても、その提案全体を否定する必要はありません。
税務上の取扱いを顧問税理士等に確認し、必要な修正を加えたうえで、実行可能性を検討する方法があります。
大切なのは、既存の専門家を変更することではなく、それぞれの専門性を生かし、社長が判断できる材料をそろえることです。
まとめ|税務判断の担当者を確認する
事業承継では、さまざまな専門家から税務を含む提案を受ける機会があります。
その際、経営者として確認したいのは、次の3点です。
- 税務に関する具体的な判断を、適切な資格を持つ専門家が行っているか
- 税額や税務上の効果は、自社の状況と適用要件を踏まえて検討されているか
- 実行後の申告や税務調査への対応まで、担当範囲が明確になっているか
税理士以外の専門家による提案であっても、財務・経営面から有益な場合があります。ただし、個別具体的な税務判断については、税理士による確認が重要です。
TMC株式会社では、公認会計士・税理士・中小企業診断士の資格を持つ代表が、税務・財務・経営の各論点を踏まえ、事業承継の方針決定から実行まで支援しています。
税理士業務については、種山公認会計士・税理士事務所で対応できる体制があります。
既に顧問税理士がいる場合は、その先生との関係を尊重し、必要に応じて役割分担のうえ連携します。税理士の先生からご紹介いただく場合も同様です。
顧問税理士や金融機関を変更することなく、事業承継に必要な支援を受けることができます。
貴社の事業承継の論点と優先順位を整理します
株価対策、持株会社、組織再編など、税務・財務・経営に関わる提案について、自社の状況を踏まえて検討することが重要です。
事前相談では、現在の状況や提案内容の概要を伺い、主な論点と支援できる範囲を確認します。
既存の顧問税理士や金融機関との関係を維持したまま、ご相談いただけます。
代表が直接対応|秘密厳守|オンライン可


